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飛べない天使  作者: 白狐
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何が有ったか

 ちょっとだけ左腕を見て悲しそうにするシルクだが、直ぐに笑顔に皆を迎えた。


「さあ入って。また会えて良かった。無事だったんだな」

「ええ……」

「会えたか?」


 シルクの問いに、バグの背中を見るスノウ。バグは、このまま一階に放置するのもなんだから、と連れて来ていた。ただの荷物のようなものだし、居てもあまり気にならない、と判断したのだ。

 シルクはバグの背中に居る、死人みたいな目をした青年を見て眉をしかめる。

 とりあえず、今まで起きた事を簡単に纏めてシルクに伝えるスノウ。シーナ達の事になると、スノウも声が震えてしまうのでたどたどしくなってしまったが、シルクは根気よく聞いてくれた。

 青年がロアだと知って、シルクは素直に情けないと思った。落ち込むのは仕方ないし当たり前だが、生きている事を悔やむなんてあってはならないし、助けようとした者達に失礼だ。戦う者としての覚悟が足りない。


「分かった。大変だったな。良く生き残った。私は嬉しいよ」

「ありがとうございます」

「スノウ、もう夢は叶ったんだ。これ以上彼にこだわる必要は無いと思う。頼まれたのだって、生きる事だ。彼を保護して貰う事だって約束を守った事になる。これ以上はスノウに負担が大き過ぎる。それとも、スノウには彼を背負って生きる理由でも有るのか?」

「……考えた事無かったです。会わなきゃと思って、それ以外考えもしなくて……なんか、盲目的ですね」

「まったく……今更気付いたか」

「はい。でも、何故だかロアと居るとあったかいんです。居ないと寂しいです。もやもやします。何ででしょう?」


 問われたシルクは勿論、聞いていたガルとキル、商人達は答えに困る。

 恋だとは思うが……今のロアを見てそれを言う勇気が無い。いろんな意味で心配である。彼らはスノウについては過保護であった。


「今のロアでもか?」

「うーん……元気になって欲しいなと、笑顔が見たいと思います。今のロアを見ると悲しいです」


 これは……重症だ。恋を超えて、愛している。


(なあ、今のロアは嬢ちゃんには……)

(重荷だよなぁ……)

(こんな男には任せられん)

(だな)

(おう)


 小声で話す商人達は、なんだか父親みたいである。


(これが恋?)

(……違う……愛)


 ガルにはまだ早かったらしい。

 キルはちゃんと理解しているようだ。


「……仕方ない。もう少し考えろ。冒険者として生きるなら、生半可な覚悟では生きていけない。自分の気持ちを整理しろ」

「はい……」


 無難なアドバイスで乗り切ったシルク。と言うより、それ以外に言える事が無い。ただの一目惚れから、何故愛に変わってしまったのか、真剣に悩むシルクである。


「シルクには何が有ったのですか?」

「ああ……別れて直ぐ、ちゃんと引き返してラルスまで戻ったのだが、ちょっとしたトラブルが発生してな。少しラルスに留まっていたら、魔物の襲撃が有って、一目見て勝ち目無しと判断して逃げたんだ」

「トラブル?」

「スールからの要請で、ラルスまで村人を非難させる緊急依頼を受けてな。一応非難させようと言う話だったから、ラルスで揉めたんだ。受け入れの是非で。依頼を受けた私達も足留めくらった訳だ」


 ラルスにも余裕が無かったので、揉めるのは仕方ない。スールがいきなり決めた事だと知らなかったシルク達にとっては災難としか言いようが無い。


「まあ、それは置いといて。私達は逃げた訳だが、当然魔物の足は早くてな。私は疲れで鈍った頭のおかげで、追い付いた魔物に遅れを取った。まあ見事に左腕が胴体からおさらばしたよ。流石に唖然とした。痛みより混乱が大きかった」

「はあ……」


 そんな清々しく言われても困る。

 強がりだとは分かるが、指摘する勇気も無いので曖昧な相づちを打つスノウ。


「キルが止血してくれたけど、血が失われてふらつくから戦えないし、逃げるのも難しいから置いていけって言ったんだ。だけど、ザックが許さなかった。近くの魔物を倒して、一瞬だけの安全を確保して言いやがった。『俺が引きつける。お前はこいつらを守れ』って。私は戦えないのに」


 無茶言うよなと、苦しそうに笑うシルクに、スノウは何も言えなかった。


「親代わりになれって事なのは分かるんだが、それはザックの方が向いてる。こういう時だけ微笑むんだから反則だ」


 あの仏頂面は、と力無く怒るシルク。

 見た目に反して仲間思いな、普段はちょっと怖いが、頼れるリザードマンのザックは、最後までその生き様を貫いた。

 その姿は、その背中は、ガルの目に焼き付いて、憧れとなっている事を、本人以外は知らない。


「『じゃあな』って言って、派手に暴れて敵の目を引きつけて岩陰の向こうに居なくなったよ。あんな風に言われて、見せられたらやらない訳にはいかないからな。必死にこいつら連れて逃げたさ。……ザックとは反対側に」


 シルクはザックと共に行きたかったのだろう。死にたかったのではなく、共に戦いたかったのだ。勝てないと分かっていても共に、ザックの横に居たかったのだ。


(ああ……もしかして)


 スノウはシルクの思いに気付いた。だからこそ、シルクの忠告がとても重いものを含んでいると分かった。理解させられた。思い人が死ぬ姿を見る事になる可能性も有るのだと。冒険者とは、そういう宿命を背負っているのだと。


「ザックがくれたこの命、無駄には出来ない。だから、私は立ち止まらない。ザックはそれを望まない。お前の恋人もそうではないのか!?」


 シルクはロアに向かって怒鳴る。二人はある意味同じなのだから。好いた人を亡くした気持ち位、シルクにも理解出来る。

 ロアの肩がピクリと動いたが、そのまま何も言わない。


「戦う者とか抜きで、生きる人として大切な人を失う事は有る。それが戦う者となればより可能性が高いと分かっているんだ。最後まで全力で戦って、足掻いて、それでも駄目だった大切な人の最後の願い位、生き残ったお前が受け止めろ! お前しか叶えられないんだ! 今のお前は逃げているだけだ!」


 ロアは耳を塞いだ。聞きたくないと身を縮める。

 シルクに手招きされたので、ロアを連れてバグが近付く。差し出せと言うのでロアをシルクの前に突き出すと……


「この、馬鹿者が!」


 凄まじい勢いで振り抜かれた右腕。思い切り張り倒されたロアは床を転がる。

 床で呆然と見上げるロアに、泣きそうなシルクの顔が目に映った。


(ああ……同じなんだ。でも、この人は強いなぁ……)


 ロアはそう思い、ただ見上げる。

 近くに居たバグは突っ立ったまま動けない。今動いたら、場の張り詰めた空気が一斉にバグを襲いそうだ。


「情けないお前を見捨てず、此処まで連れて来てチャンスをくれたスノウまで、お前は傷付けたんだ。裏切ったんだ。お前の恋人の意思を受け止め、しっかり守ろうとした努力を踏みにじったんだ。これ以上、想いを馬鹿にするなら容赦しない!」

「あ、う……」


 凄まじい剣幕に、ロアは何も言えない。

 聞きたくない筈なのに、聞かなきゃいけないと自分の中の何かが言う。


「……私は良い」

「スノウ!」


 突然口を開いたスノウに、シルクは少しだけ驚き、そして怒ろうとした。人が良いのは良いが、それが行き過ぎていると。

 だが、スノウの瞳に何か堅い意志を感じて押し黙った。


「皆、生きようと頑張って、それでも駄目だと分かった時、ロア以外は誰か一人でもと生かそうとしたんです。ロア、あなたはシーナしか見てなかったのですか? アクアは、皆が取り乱さないように、必死に恐怖心を隠してました。そして、迷わずシーナを庇って倒れました」


 ロアはただスノウを見上げる。


「そして、シーナはあなたを守ろうとして倒れました。でも、最後まで自分よりロアの事を想ってました。ロアの事をずっと支えていたかったのだろうと思います」


 俯いたロアに構わず、スノウは続ける。


「フロンは、暴走したロアを止めようとしながら敵と戦いました。そして、私に託して、自ら敵に刺されて盾となって引き止めてくれました。最後に笑顔で見送ってくれました」


 ロアはフロンの最後は知らなかった。スノウの話を聞こうとしなかったから、知らなかっただけだ。

 だから、息を呑んで顔を上げた。


「ロアは俺だけ生き残ったと言いました。私は仲間ではないのだと言うなら構いません。でも、シーナは恋人、アクアとフロンは仲間でしょう? その仲間の想いを受け止めて下さい。仲間が守ってくれた命なのに、此処で立ち止まってしまうのですか? 結果的にロアだけ生き残ったのかもしれない。でも、もうそれは覆せない! だから、その過程から眼を反らさないで!」


 ロアは眼を見開き、涙を流した。


「……ごめん」


 そう小さく呟いて、押し黙るロア。

 泣きたいのは同じだったのだろう。スノウも堪えきれず、涙を流す。シルクが手招きするのでヨロヨロと近付くと、シルクが片腕で抱き締めてくれた。そのまますがりつくように泣くスノウ。今まで我慢して来たのが、限界に達したのだ。スノウにとっても、シーナ達は大切な仲間だから。

 キルがスノウに駆け寄り、優しく背中をさする。キルにとってはスノウは仲間。ちょっと珍しい魔法使いの獣人を、何の偏見も無く受け入れてくれた初めての人間。そして、優しいお姉さん。ちょっとお人好し過ぎる、初めて信頼した人間。だから見ていられないし、スノウを傷付けたロアには怒りを覚える。だけど、怒るのはガルに任せる事にした。喧嘩ならガルの方が強いから。そして、上手いから。

 ガルはロアの前に仁王立ちして睨む。


「お前も男だろ! なにメソメソしてんだよ! 俺だって男なのに守れなかった弱い奴さ。だけど、メソメソしない。ザックの背中に追い付きたいからな。『次はお前が守れ』ってザックは背中でそう言ってた。強い男だった。憧れた。だから、今のままじゃ駄目なんだ。悲しみなんか、ザックは要らないって言うね! そんなものでは、次大変な事が起きても、何も守れない。だから、どうしたら良いか分からないけど、がむしゃらに足掻く事にする! 酷い怪我でも守ってくれたシルクにも、恩返ししたいからな! 次は俺が守って、ザックとは違って生き延びてやる。ザックを超えてやるんだ!」


 真っ直ぐに前を見詰めるガルが眩しくて顔を逸らしたロア。自分より幼い筈の獣人の子が、とても大きく見えた。


「……」


 ほんの少しだけロアの瞳に色が戻った。

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