8.道理と感情論の比重
この国で私は貴族と呼ばれる立場だ。皇帝陛下を除けば家柄は上から三番目。その事実を知った当時は、あまりの不相応さに目眩がしたものだが、それは過去の話。どうにもならないのだから考えても無駄。こんな事でもない限り、思い出すこともなくなっていた。
皇帝に娶られる条件には、第一に貴族の令嬢であることが大切らしい。どこの世界も身分というものを重要視するのだな…と呆れ半分、一応は納得している。
国の頂点である彼の隣に立つには、本人がどうこうというよりも、そのバックグラウンドとやらが問題なのだ。この世界の構造に関わる事情であり、どうにも対策がたてられない(裏技に近い方法も一応あるが)のだから仕方がない。皇帝陛下の最も身近に存在する歴代の妃は、皇妃の資質を問う以前、彼へ危害を加える可能性の有無を前提に、選ばれていたりする。
――この世に絶対の安全はない。簡潔に言わせてもらえば、嫁ぐ花嫁の親族は人質。国家の保護という監視下に措かれた貴族は、家系身内を管理しやすくて、人質には最適らしいのだ。何とも薄ら寒い話である。
そんな裏事情を把握しているのかいないのか……多分当たり前すぎてソレを強く意識する者など極僅か。それこそ悪意でも持っていない限り、無関係なのだ。結局のところ、誰もが権力に弱い。全てを承知の上でも、自慢の娘を是非、そう皇帝に差し出すのだろう。まるで他人事のようだが、当事者だからこそ客観的でいられる場合もある。それが今のバニラ、だった。そう、まさに当事者なのだ。
この招待状、ある程度身分の高い貴族宅へ、無作為に配られたとされるが、実際には中々どうして、配布先が意味深過ぎた。独自ルートで知り得た情報によれば、家族同伴自由と謳う、若い未婚女性宛てのモノが、計100通ほど用意されているらしい。無作為なのは、それ以外(その中には社交界で華々しく活躍?中の美貌を誇る既婚女性も、私が知る限り全員含まれていた――――やっぱり人づ…いいや、何も言うまい)の招待状。年頃の娘を持つ貴族に対しては、予め制限された数しか配布せず、明言を避けつつも自然な流れで事前に争いの芽を摘む手腕は、流石だと思えた。しかし詳細を知る術がなく、そこまでの意図に気付けなかったとしても、皇帝が独身の状況で【満十五歳、成人女性は全員参加可能】となれば言わずもがな、だ。
察せないようなら、貴族という地位にいる現状を、奇跡と呼んでも過言ではないと思う。オロオロしている使用人をよそに、親の仇とばかりの鬼気迫る表情で、毎朝ポストの前に待機する貴族(総じて娘がいる親)という滑稽な場面が作り出されたのは当然の結果だ。例をあげるなら、三つ年上の従姉に誕生パーティー(という名の自慢大会、またの名をプチ社交界in腹黒予備軍令嬢の集い)の招待状を直接(要は先手必勝)届けようと出向いた先で、陽は昇りきったというのに、血走らせた目の叔父上殿が、玄関先で仁王立ちする姿を偶然にも目撃して、溜め息一つで自主的に記憶を削除し、急遽予定を変更した彼女が思わずうっすらと浮かべてしまったのは、嘲りの表情や失笑の類いでもなく……涙だった、という具合である。母に婿入りした父を常に上から見下している相手だと知っていたが、それはそれ、これはこれ。各所で似たような光景が繰り広げられてると理解していたけれど、やるせない気持ちになるのは仕方ない。こうして頭痛の種と認識された厄介な代物がバニラの元に届いたのだ。勿論それが全てではないけれど、現実逃避の一つや二つや三つや四つ、したって誰も文句を言えないと思うとは、あくまで彼女の言い分だった。
お相手は!?(゜ロ゜;
あまりの鈍足に言葉もありません。まさかの評価を頂戴致した(日本語?)という事実に声もでません。上記二点、意味合いも価値も天と地ほど差がありますが……お気に入り登録をして下さっている方々同様、本当にありがとうございます!誠に感謝です!!(正しい日本語使えてる?)嬉しさで舞い上がり、不相応さに挙動不審になっている私は、使い物になりそうもないので、そろりと失礼します。
次こそ主人公以外の元アニマルを登場させます。なんとしても。だいぶ本来の予定とは、かけ離れてしまいましたが、開始して随分経つのに、話の中で一日も経過してないとか、全然笑えない事態ですorz 気長に待って下さっている優しい皆様、申し訳ありませんっっ