5 花をほどく
ちょっと際どいですが、一応大丈夫です
無理って方は即回れ右!
小屋に逃げ込んですぐ、アルヴァーノはフィオレンツァの頬や身体に怪我がないことをたしかめた。彼も鉄砲の登場に気を張っていたのだ。安心して脱力した。
「本当にすまなかった。フィー。怖かっただろう?」
「⋯⋯」
「やつらはアンジェリーナ嬢の何に影響されているのか知らないが、どうも話が通じない⋯⋯本当にごめんね」
頭をなでる彼の手の温かさに涙がこぼれそうになる。彼は裏切ってなどいなかった。冷たい視線は彼女に向けられたのではなく、彼らの話の滑稽さに苛立ち、抑えていた感情が静かに爆発したために顔に現れたのだ。
アルヴァーノはいつかの約束通りフィオレンツァを護ってくれた。大勢が敵となったあの場で、彼女に何の見返りを求めることなくただただ信じて庇ってくれた。それが何よりも嬉しいことで、彼女は震える口でありがとうと伝える。互いに怪我がないことを確認してほっと一息をつく。
狭い小屋のせいか、必然的に身体が密着する。アルヴァーノの吐息が頬を掠めて空気に溶け込んでいく。小さなテーブルに座った状態のフィオレンツァに覆いかぶさるような体勢になっている彼は、フィオレンツァに体重をかけることがないように配慮して時折声をかけてくれる。彼女は返事をしつつ、徐々に時間が過ぎていくのを耐えた。
足がアルヴァーノの足に挟まれ、身体のすぐ横を彼の腕が通って壁にもたれかかっている。上を見上げたとき下を向いていた彼と目が合って、沈黙が落ちる。心臓の音が聞こえるくらい静けさがうるさい。
「フィー」
甘さを含んだアルヴァーノの声が降ってくる。名前を呼ばれることがこれほど嬉しいことだと教えてくれたのは彼だった。壁について身体を支えていた彼の右手がそっと頰をなでる。左手がひじまで壁についたおかげでグッと距離が近くなる。鼻と鼻が触れ、フィオレンツァの心臓が肩と同時に跳ねた。
「フィー、好きだ」
「ん」
「ずっと、ずっと愛してる」
「んっ」
額やまぶたや鼻や頬についばむような口づけが転がり、バクバクと心臓が躍る。フィオレンツァはゆでダコのように沸騰寸前だった。赤くなった耳を優しくかじられ、二人の間に流れる妙な雰囲気に頭がおかしくなってしまいそうになる。
なるべく声を出さないように抑えて、それでものどから漏れる声に恥ずかしくなる。
「⋯⋯やっ」
制服のボタンが外されて、リボンがほどかれる。ブラウスボタンを上から四つ外して、アルヴァーノは手を滑り込ませた。
「⋯⋯あ」
ふと何を思ったか、顔を上げた彼は真っ赤に染まったフィオレンツァの顔と自分の右手が彼女のブラウスのなかに入れられているのを見比べて間抜けな声を出した。
「あ〜〜〜〜ッ!!」
それから彼女に負けないくらい首から顔を真っ赤にして、スッと勢いよく手を引っ込めた。今まで余裕そうな態度しか取ってこなかった彼が珍しく慌てている。
「ごめん! 怖かったよな!? ごめん! ほんっとうにごめん!」
平謝りする彼にびっくりする。土下座までしようとする始末だ。一国の皇太子にそんなことをさせるわけにはいかなくて、フィオレンツァははだけられたブラウスの下を手で隠しながら彼をなだめた。
赤かったのを真っ青にして謝る彼がかわいそうになってくる。
「⋯⋯や、やじゃない、よ」
そう言うのが精いっぱいで、フィオレンツァはきゅっと目を閉じた。息を呑む気配が伝わってきて、なにか変なことを言ってしまったのかと恐る恐る目を開ける。自然と上目遣いになって、彼を見上げた。
「⋯⋯かわいいフィー。俺をそばにいさせて」
顔を赤くして悶える彼はまた腕を広げてフィオレンツァをぎゅっと抱きしめる。壁に頭をぶつけてしまわないように添えられた手からあたたかい温度を感じる。彼はどこまでも甘く、優しい人だ。
一度離れると、アルヴァーノは今度は足で身体を支えながら両手で彼女の顔を包んだ。決して重らないように細心の注意を払う。やわらかな肌に触れ、熱でゆで上がった頬をなでる。額を合わせて、次は鼻。少し離れて、また優しくぶつける。焦れったいようなこの時間がとてもこの上ない幸せだ。まさにこれを多幸感というのであろうか。フィオレンツァはもっと、と欲張りになっていく自分に気づく。
前世ならこんなことはなかったのに。幸せを享受している自分が信じられない。それを無条件でくれるアルヴァーノに感謝の意を伝えるように、彼女は上を見上げた。
潤んだ瞳を見て我慢が利かなくなる。アルヴァーノはフィオレンツァの膨れた唇にかぶりついた。赤い果実のようなそれは予想通りやわらかく、甘かった。別れがたい熱を宿した瞳に見つめられ、フィオレンツァも応えるように身体を跳ねさせる。さっきまでとは違う、長い長い時間が流れる。
「俺はお前を大事にするって決めたんだ。これ以上はダメ」
自分に言い聞かせるようにそう言って、彼はフィオレンツァから少し距離を取った。先ほどからいつもより少し言葉が幼くなっている。ほんの微々たる違いだが、彼の素に触れたようでなんだか嬉しくなる。名残惜しそうに見つめてくる彼の視線に、フィオレンツァは少し勇気を出した。ちょっぴり胸が弾む勇気だ。
アルヴァーノのタイを引っ張り、顔を近づける。小さくリップ音を立てる口づけをしてすぐに離れた。恥ずかしくて彼の顔を見ることができない。顔を手で覆って物理的にアルヴァーノの顔が見えないようにする。
すると、すっと伸びてきた大きな手が彼女のそれを奪う。パチリと視線がかち合って、新しい熱がわき上がってくる。ぎゅっと互いに抱きしめ合って、恥ずかしい感情も嬉しい気持ちもないまぜになった心地で笑い合う。
たったそれだけのことで幸福感に包まれる。二人は幸せだった。この時間が永遠に続くことを願っていた。
普段書いてる男の友情ものじゃないし、書いていて恥ずかしくなった
世の中の官能小説などを書いてる作家さんはすごいっスね
もう二度と書きたくない⋯⋯




