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夕闇が医務室を濃紺の色に染め上げ、やがて静かな夜の闇が訪れる頃。
疲労と心労が限界に達していたまふゆは、ミカゲの手を握りしめたまま、椅子に座った姿勢でこくりこくりと舟を漕ぎ、いつしか意識を手放していた。
規則正しい寝息が、ミカゲのそれと重なる。
……ふと、ミカゲの指がぴくりと動いた。
ゆっくりと、重い瞼が開かれる。
ぼんやりとした黒い瞳が、見慣れない天井を映し、次いで自分の手に伝わる温もりと、すぐそばにある柔らかな気配に気づいた。
視線を巡らせると、そこにいたのは、椅子に座ったまま眠り込んでいるまふゆの姿だった。
白い髪が顔にかかり、あどけない寝顔を隠している。彼女はミカゲの手を、まるで大切な宝物のように両手で包み込み、その上に自分の頬を寄せていた。
涙の跡が、彼女の白い肌にかすかに残っている。
「……まふゆ……」
ミカゲは、かすれた声で彼女の名前を呼んだ。
自分の体がまだ鉛のように重く、あちこちが軋むように痛むのを感じる。
だが、それ以上に、彼女が自分のために泣き、今もこうしてそばにいてくれるという事実が、彼の胸を温かく満たした。
彼はもう片方の手で、そっとまふゆの頭に触れる。
その白く柔らかな髪を、ゆっくりと、壊れ物を扱うかのように撫でた。
(……俺は、あんたにそんな顔をさせるために、力を望んだわけじゃない)
自分の無茶が、彼女を深く傷つけてしまった。
守りたかったはずの存在に、悲しい思いをさせてしまった。
後悔が、じわりと胸に広がる。
ミカゲは静かに息をつくと、まふゆを起こさないように、涙の跡を指でなぞった。
そして、もう一度、彼女の手を弱々しく握り返す。
静寂の中、ただ二人の寝息だけが響く医務室。
夜はまだ、始まったばかりだった。
第六話・了




