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増強されきった彼の腕力と、影との一体化による奇襲。
その一撃は、Sランク級の防御力を持つゴーレムの装甲を、まるで紙のように貫いた。
パキィィィィン!!
けたたましい音と共に、紫色のコアクリスタルに亀裂が走る。
紫の光は急速に勢いを失い、ゴーレムの巨体は力を失ったようにガクンと膝をついた。
そして、そのまま動かなくなる。
静寂が、訓練場を支配した。
天井の影から、ミカゲの体がふらつきながら落ちてくる。
彼は受け身も取れず、地面に叩きつけられる寸前────……
「……よくやった、ミカゲ」
レオンハルトが、その体をギリギリで受け止めていた。
ミカゲの体は火のように熱く、全身から黒い煙のようなオーラが立ち上っている。意識はほとんどない。
「ミカゲ!しっかりして!」
セリウスが駆け寄り、彼の状態を確かめる。
強すぎる力の代償は、あまりにも大きかった。
まふゆは、呆然と立ち尽くす。自分の魔術が、仲間をここまで追い詰めてしまったという事実に、血の気が引いていくのを感じていた。
「い、いやっ……あ……っ、いやあああああーーーーっ!!!!」
まふゆの悲痛な叫びが、静まり返った訓練場に響き渡る。
レオンハルトの腕の中でぐったりとしているミカゲの元へ、彼女はもつれる足で駆け寄った。そして、たまらずその体に抱きつく。
彼の体は異常に熱く、まるで燃えているかのようだ。
「なんで、なんで、こないな無茶……!ミカゲ、ミカゲ!!」
ぽろぽろと、菫色の瞳から大粒の涙がこぼれ落ち、ミカゲの黒い装束を濡らしていく。
自分の力が、仲間を傷つけてしまった。その事実に、まふゆの心は張り裂けそうだった。
「まふゆ、落ち着け!これは、お前のせいじゃない!」
レオンハルトが、ミカゲを抱えながら必死にまふゆに呼びかける。
「ミカゲはこのゴーレムを倒すために、お前の力を限界まで引き出すことを自分で選んだんだ!お前が悪いわけじゃない!」
「そうだよ、まふゆ……!君の魔術がなければ、僕たち全員やられてた。君は、僕たちを守ってくれたんだ」
セリウスも、震えるまふゆの肩にそっと手を置き、慰めるように言った。
「君の魔術が『効かなかった』わけじゃない。むしろ……効きすぎたんだ。ミカゲの体が、君の増幅した力に耐えきれなかっただけ……」
セリウスの言う通りだった。
ミカゲの体は、Sランク級の魔物を一撃で屠るほどの、規格外の力を受け止めてしまったのだ。
その代償が、今こうして彼の身に降りかかっている。
「……うる、さい……」
その時、レオンハルトの腕の中で、ミカゲがかすれた声で呟いた。
彼は薄っすらと目を開け、その黒い瞳で、泣きじゃくるまふゆの姿を捉える。
「……泣くな……あんたのせいじゃ、ない……俺が……望んだことだ……」
息も絶え絶えに、それだけ言うと、ミカゲは再び意識を失った。
彼の意識を繋ぎとめていたのは、ただ、彼女に悲しい顔をさせたくない、その一心だけだったのかもしれない。
まふゆの涙は、それでも止まらなかった。




