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芸術棟の廊下に、生徒たちが次々と流れ出てくる。
それぞれの授業を終えた者たちが、自然と中庭前の広場に集まってきた。
「まふゆ!」
最初に声を上げたのはセリウスだった。
その後ろから、レオンハルト、リリアも合流する。
「お疲れさま。どうだった?」
セリウスの問いに、まふゆは少し考えるようにしてから、ぱっと笑った。
「うん。ミカゲさんと一緒で、めっちゃ楽しかった」
その一言。
空気が、わずかに……いや、はっきりと揺れた。
「……ミカゲと一緒だったのか」
レオンハルトの声が、低くなる。
「……ふうん。良かったね」
セリウスも、いつもの柔らかな笑みの奥で、目の色が少しだけ鋭くなっていた。
「あ、そ、そういう意味やなく!うち一人やなくてよかったって意味で……!」
まふゆは慌てて両手をぶんぶんと横に振る。
セリウスの拗ねたような視線と、レオンハルトの面白そうな視線に挟まれて、顔にじわっと熱が集まるのが分かった。
そのしどろもどろな様子を見て、三人の男たちはそれぞれ異なる反応を示す。
「はは、分かってるって。だが、どうせなら俺と一緒が良かった、くらい言ってみろよ」
彼はからかうように笑いながら、がしがしとまふゆの頭を豪快に撫でた。その手つきは乱暴に見えて、彼女の白い髪を傷つけないように配慮されている。
その目は、ミカゲとセリウスに対して「な、そうだろ?」とでも言うように優越感を滲ませていた。
「ふん……別に、君が誰と一緒で嬉しいとか、僕には関係ないけどね」
セリウスはそっぽを向きながら、小さな声でぼそりと尋ねる。完全に拗ねていた。
彼は音楽を選んだ自分を少しだけ後悔し始めていた。まふゆの隣の席は、いつも誰かに取られてしまう。
「…………」
ミカゲは、慌てるまふゆと、彼女を取り囲む二人を静かに見つめていた。
そして、レオンハルトがまふゆの頭を撫でた瞬間、その黒い瞳がすっと細められ、レオンハルトの腕に冷たい視線が突き刺さった。
(……馴れ馴れしい)
三者三様の反応が、交錯する。
まふゆの慌てた弁明は、かえって三人の独占欲や対抗心を煽る結果となってしまったようだ……。
第五話・了




