表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白の少女は三人の男に愛される  作者: 有氏ゆず
第五話 少女は水着を着用する
60/71

5-9




芸術棟・美術室。


大きな窓から差し込む午後の光が、室内に並べられたキャンバスと絵具を柔らかく照らしていた。油絵具特有の匂いと、少しざらついた空気。書道室とはまるで違う、色と音に満ちた空間だ。


「……へえ。まふゆと一緒じゃなかったのは残念だが……美術もなかなかいいもんだな」


レオンハルトは、壁際に立てかけられた見本の絵を眺めながら、感心したように低く声を漏らした。

筆を持つより剣を握る方が性に合っている彼だが、こうして並ぶ色彩の奔放さは、嫌いではなかった。


「今日は自由制作だ。好きなものを描いていい」


教師の言葉に、教室が一斉にざわめく。

題材を決めかねている生徒もいれば、早くも下描きを始める者もいる。


レオンハルトは空いている席に腰を下ろし、キャンバスの前で腕を組んだ。


(……さて、何を描くか)


その時だった。




「……あ」


小さな声が、すぐ近くから聞こえた。


顔を上げると、隣の席にダークエルフの少女が立っていた。

どこか遠慮がちに視線を伏せ、両手でパレットを抱えている。


「……リリア、だっけか。まふゆの友達の」


その名を呼ばれた瞬間、少女の肩がぴくりと跳ねた。


「う、うん……っ!あ、あの、あーしの名前……覚えててくれたんだぁ……」


魔物侵入事件の時の光景が、レオンハルトの脳裏を一瞬よぎる。

瓦礫、魔物、泣きじゃくる女の子……そして、守ると決めたあの瞬間。


「美術、選んだんだな」

「……うん。えっと、描くの、好きだし」


控えめな声。だが、その頬はわずかに赤く染まっている。




実は、リリアはこの授業を選ぶ前から知っていた。レオンハルトが美術を選ぶかもしれない、という噂を。


それだけで、胸の奥がそわそわして、気づけば名簿に同じ科目を書いていた。


「隣、座っても、いいー……?」

「ああ、もちろん」


レオンハルトは即答した。

特別な意味はない。ただ、それが自然だと思っただけだ。


リリアはほっとしたように微笑み、静かに席に着く。

キャンバスを前にしても、ちらり、ちらりと隣を気にしてしまうのは、どうしようもなかった。


(……すんごい、近いしー……)


剣を振るう時よりも、ずっと穏やかな横顔。

真剣に色を選ぶその姿を見ているだけで、胸がきゅっと締めつけられる。




「……あの時」


リリアが、小さく口を開く。


「あーしを、助けてくれて……ありがとぉ……」


レオンハルトは一瞬手を止め、彼女の方を見る。


「今さらだな」


そう言って、少し照れくさそうに視線を逸らした。


「当然のことをしただけだ」


当然。

その一言が、リリアの胸に優しく落ちる。




「……あーし、頑張って描く」

「おう。困ったら言え」


レオンハルトはそう言って、再びキャンバスに向き直る。


その距離は、まだ一歩分。

けれど、確かにリリアの世界と彼の世界は、少しだけ近づいていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ