表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白の少女は三人の男に愛される  作者: 有氏ゆず
第四話 少女は取り残される
49/71

4-10




彼は短剣を音もなく鞘に納めると、まふゆの前にすっと屈み込んだ。

そして、何の躊躇もなく、彼女の膝の裏と背中に腕を回す。


「え……?」


まふゆが戸惑いの声を上げる間もなく、彼女の身体はふわりと浮き上がった。

いわゆる、お姫様抱っこの体勢だった。


まふゆはミカゲの胸に顔を埋める形になり、トクン、トクン、と静かだが力強い心音が伝わってくる。

黒い装束からは、夜の闇や古い書物のような、不思議と落ち着く匂いがした。


「……行くぞ」


彼はそれだけを短く告げると、まふゆを抱きかかえたまま、何事もなかったかのように立ち上がる。

その足取りに一切のふらつきはない。


「大講堂に向かう。あんたは、そのまま動くな」


淡々とした、命令口調。しかし、その声には有無を言わせぬ力強さと、確かな安心感があった。

彼はまふゆの顔に自分の黒い上着の端をかけ、まるで宝物を隠すかのように、彼女の姿を外から見えないように覆った。


まふゆは彼の腕の中で、ただされるがままになっていることしかできない。

廊下の向こうから、また別の魔物の咆哮と、戦闘の音が聞こえ始めていた。


しかし、ミカゲに抱かれているこの腕の中だけは、世界で一番安全な場所のように感じられた。




とくん、とくん……


こんな極限状況だというのに、まふゆの心臓は早鐘を打っていた。


ミカゲの腕の中は、驚くほど静かで、安全だった。彼の黒い装束がまるで砦のように、外の世界の恐怖からまふゆを守ってくれている。


廊下の向こうからは、耳を塞ぎたくなるような戦闘音や魔物の咆哮が聞こえてくるのに、不思議と怖くはなかった。


(たすけに、きてくれた)


絶望の淵にいた自分を、見つけ出してくれた。

その事実が、ユキロンよりも甘く、胸の奥をじんと痺れさせる。


ミカゲの首筋に顔をうずめる形になり、彼の静かで、でも確かな体温と、夜の闇のような落ち着く匂いに包まれる。


まふゆは、そっと目を閉じた。

ミカゲの胸に響く、力強い鼓動。それが自分の高鳴る心音と重なっていく。




……ミカゲは何も言わない。

ただ、まふゆを抱くその腕に、ほんの少しだけ力を込めた。


彼は廊下の角で一度立ち止まり、気配を殺して周囲の状況をうかがう。その動きには一切の無駄がなく、静かな獣のようだった。


やがて、安全を確認すると、再び静かに歩き出す。

その一連の動きの中で、まふゆを抱く腕が揺れることは一度もなかった。まるで彼女が硝子細工であるかのように、慎重に、そして大切に運ばれている。


まふゆは、このままずっとこうしていたいと、場違いにもそう願ってしまっている自分に気づき、頬を熱くした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ