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「と、とにかく大講堂へ急がへんと……」
まふゆは一人、走った。
静まり返った廊下に、自分の荒い息遣いと、必死な足音だけが響く。
先ほどまでの喧騒が嘘のようだ。正しい道を進んでいるのか、それとももっと危険な場所へ向かっているのか、判断がつかない。
ただ、じっとしていてはダメだという焦燥感だけが彼女を突き動かしていた。
角を曲がり、また次の角へ。
窓の外からは、時折、紫色の閃光が走り、学園の結界が激しくきしむ音が聞こえてくる。
その時だった。
ドンッ!!
すぐ近くの壁が、凄まじい衝撃と共に内側から爆ぜた。
粉塵と破片が廊下に舞い散る。
「きゃっ!?」
まふゆは思わずその場にへたり込んだ。
咳き込みながら顔を上げると、粉塵の向こう側、破壊された壁の穴から、ぬっと巨大な影が現れる。
「グルルルル……」
それは、ミノタウロスだった。牛の頭を持つ、筋骨隆々の巨体。
しかし、その姿は異様だった。全身の毛は不気味な紫色に変色し、両目からは狂気に満ちた紫の光が漏れ出している。手には巨大な戦斧を握りしめ、その切っ先からは破壊したばかりの壁の残骸が滴っていた。
まさか、もう学園の結界はまだ破られてしまったのか。
その疑問が頭をよぎるより早く、ミノタウロスは廊下に一人でいるか弱い獲物……まふゆをその狂った瞳で捉えた。
「グオオオオオオッ!!」
獣の咆哮が廊下を震わせる。
ミノタウロスは狙いを定めると、まふゆに向かって猛然と突進してきた。その巨体から発せられる圧と殺意に、まふゆは身体が凍りつき、声も出せずにただその場に座り込むことしかできなかった。
「…………っ!!」
……その瞬間、まふゆの背後の影が、ぐにゃりと歪んだ。
そして、ミノタウロスの斧が振り下ろされるよりも早く、黒い疾風がまふゆの前に躍り出る。
「──見つけた」
カキンッ!という甲高い金属音。
ミカゲが腰の鞘から抜き放った二振りの黒い短剣が、巨大な戦斧を寸前で受け止めていた。




