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シャノンはセリウスの手を振りほどき、舌打ちしながら廊下の奥へ駆け出そうとした。
──その瞬間だった。
床に広がっていた影が、不自然に蠢く。
「……っ!」
嫌な予感が走った刹那、影の中から紫色の魔力が噴き上がった。
異様に歪んだゴブリンが二体、ほぼ同時に跳び出す。
「チッ……!ほんっと、しつこいんだから……!!」
シャノンは即座に迎撃し、一体の顎を蹴り上げる。
だが、もう一体が死角から振るった刃が、彼女の脇腹を掠めた。
「くっ……!」
浅い。だが、確実に体勢を崩される。
さらに奥から、重い足音。
さっきまでとは比べ物にならない、明らかに強化された個体が姿を現す。
紫色の魔力を纏い、知性を感じさせる不気味な視線でこちらを見据えていた。
「……ちょっと、流石に、数……多すぎ……」
シャノンは息を荒くしながら構えるが、さっきの一撃で動きが鈍っている。
その隙を逃さず、強化個体が腕を振り上げた。
──間に合わない。
そう判断した瞬間。
「やめろォォ!!」
セリウスが、叫びながら前に出た。
短剣を抜き放ち、震える腕で突き出す。
刃は浅く、だが確かに魔物の腕に突き刺さった。
「ギィッ……!」
魔物が怯んだ、その一瞬。
セリウスは歯を食いしばり、全身でシャノンを突き飛ばした。
「今だ、下がって!!」
次の瞬間、衝撃がセリウスの背中を打つ。
壁に叩きつけられ、息が詰まる。
「……っ、ノセ!!」
シャノンは目を見開く。
倒れ込んだセリウスの前に立ち、爪を構える。
その背中は、小さく震えていたが──逃げなかった。
「……なんで、出てきてるのよ……!」
「……君が……やられるのを、見てられなかった……」
掠れた声。それでも、視線は逸らさない。
シャノンは一瞬、言葉を失った後、舌打ちする。
「……馬鹿。ほんっとに馬鹿。ノセのくせに」
そう言いながらも、彼女の尻尾はぴんと立ち、殺気が一段階跳ね上がった。
「でも……悪くないわ」
次の瞬間、彼女は獣のように踏み込み、魔物の喉元を切り裂いた。
荒い呼吸の中、シャノンは振り返り、セリウスを睨みつける。
「……あんた、今の、自分が何したか分かってる?」
「……うん。無茶、した……」
それでも、とセリウスは続ける。
「……まふゆも、きっと……誰かが、守らないと……」
シャノンはしばらく黙っていたが……やがて小さく息を吐いた。
「……分かった。もう一人で行かない」
彼女はセリウスに手を差し出す。
「大講堂に向かうわ。結界がまだ生きてる可能性が高い」
「……まふゆも、そこに……?」
「ええ。人の流れ的にも、可能性は一番高い」
セリウスはその手を掴み、立ち上がった。
「……行こう。まだ、間に合う」
二人は頷き合い、再び廊下を駆け出す。
「……ところで、ノセって何だよ。さっきからさ」
セリウスの言葉に、シャノンはふふっと笑って答える。
「……ノロマなセリウスの略。素敵でしょ?」




