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「全員、落ち着いて大講堂へ向かえ!走るな、押すな!」
教師の叫び声も、パニックに陥った生徒たちの耳には届いていない。
警報の音、遠くから響く地響き、そして結界がきしむ不気味な音。それらが恐怖を煽り、生徒たちは我先にと教室の出口へ殺到した。
「きゃっ!」
「押さないで!」
その人の波は、巨大な濁流のようだった。
まふゆを守るように固まっていた四人だったが、その陣形も無慈悲な群衆の力によって引き剥がされていく。
「くそっ、まふゆ!手を離すな!」
レオンハルトはまふゆの手を掴もうとしたが、横からなだれ込んできた別の生徒に阻まれ、人波に押されて前へと流されてしまう。
彼は必死に振り返るが、次から次へと押し寄せる生徒の壁に、まふゆの姿が見えなくなっていく。
「まふゆ!セリウス、ミカゲ!彼女を頼む!」
声は届いているのか、いないのか。彼は歯噛みしながらも、まずはこの混乱を収拾しようと前方の生徒を誘導し始める。
「まふゆ!こっちだ!」
セリウスはまふゆのすぐそばにいたが、足をもつれさせて転んだ生徒に気を取られた一瞬の隙に、まふゆとの間に人垣ができてしまった。
「待って、行かないで!僕のそばに……!」
手を伸ばすが、その手は空を切る。
彼は群衆の流れに逆らおうとするが、非力なハーフエルフの体では、パニック状態の人間たちの力に抗うことは難しい。
彼は焦燥に顔を歪ませながら、必死にまふゆの姿を探す。
「……チッ」
ミカゲは舌打ちを一つすると、影に溶け込もうとした。
しかし、密集した人の熱気と恐怖という強い感情が、彼の集中をわずかに乱す。
影に溶け込む前に、彼はまふゆが人波のまったく逆方向、人の流れが途切れた反対側の廊下へと押しやられていくのを見た。
他の二人とはぐれ、たった一人で。
ミカゲの黒い瞳が、鋭く細められる。彼は他の生徒を突き飛ばすことも厭わず、最短距離でまふゆの後を追うことを決めた。
そして、まふゆ。
彼女はなすすべもなく、人の波に翻弄されていた。
「レオンハルトさん…!セリウスさん…!」
呼びかける声は悲鳴にかき消される。
……気づけば、周りには誰もいなくなっていた。
大講堂へ向かう人々の流れから外れ、静まり返った別の廊下に、まふゆは一人でぽつんと立ち尽くしていた。
遠くで響く警報の音と、時折学園を揺るがす衝撃音だけが、この異常事態が続いていることを告げている。
たった一人、取り残されてしまった。
その事実に、まふゆの心臓は不安に大きく脈打つのだった。




