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「で、さっきの話の続きだが、どこの国出身なんだ?」
教室へ向かいながらレオンハルトが尋ねる。
「あ、はい。うち、桜の国から来たんです。少しでもうちの力が役に立つならええなと思って……」
「桜の国……東方の、美しい島国か。素晴らしいな」
レオンハルトは感心したように頷く。彼の真っ直ぐな称賛に、嘘や下心は感じられない。
「見たところ、君はアルビノエルフか?君のような治癒術に長けた者がいれば、多くの者が救われるだろう。俺たちも人間だからな。怪我とは無縁でいられない。その時は……頼りにさせてもらうかもしれないな」
彼は悪戯っぽく笑いながらそう言った。
その言葉に、隣にいたセリウスがピクリと反応する。
「……兄さんはすぐ無茶をするから。でも、ハーフエルフの僕には白魔術は効きすぎることもある。……君の力は、僕みたいなのにも……その、効果、あるの?」
彼は目を逸らしながら、ぼそぼそと尋ねてきた。ハーフエルフという自分の立場を気にしているのが伝わってくる。その問いには、純粋な疑問と、少しの不安が混じっているようだった。
……ハーフ。
人間と別種族の子として生まれた半端者の存在。特に高潔な一族エルフの血が混ざっているハーフエルフは、相当の差別を受ける。
しかし、兄であるレオンハルトにはエルフの血は感じられない。
「……ああ。俺達は異母兄弟なんだ」
「そうなんや……」
デリケートな話題だ。これ以上踏み込むことができず、まふゆは口を噤む。
それを見兼ねたセリウスがはあ、と溜息をつく。
「……気にしなくていいから。慣れてるし。それよりもさっきの質問、答えて欲しいんだけど?」
「えっと、その……うちも自分の力についてよう知らへんのです。せやからちゃんと学校で学びたいなと……」
「そうか。自分の力を知らない、か」
レオンハルトはまふゆの答えに驚いた様子だったが、すぐに納得したように頷いた。
「なるほどな。それもそうか。希少な種族であれば、比べる相手も少なかっただろう。この学園は、そのためにあるようなものだからな。存分に学ぶといい」
彼は励ますように、力強い笑みを見せる。
一方、セリウスはまふゆの言葉に少し拍子抜けしたようだった。しかし、同時に安堵したような、複雑な表情を浮かべている。
「……そっか。まあ、僕も自分の魔力が他のハーフエルフと比べてどうなのか、よくわからないし……。お互い、これからってことだね」
先ほどのぶっきらぼうな態度は少し和らぎ、どこか親近感を覚えたのかもしれない。彼は少しだけまふゆと視線を合わせると、照れたように俯いた。
「さて、長話もなんだ。教室に行こうか。……ああ、そういえば下の名前は?」
レオンハルトが改めて、優しい声で尋ねる。
人垣はもうすっかりなくなり、三人の周りは静かになっていた。
「ああ、堪忍ね。ちゃんとした自己紹介も無しに話し込んでしもて……。うちは、水鏡まふゆといいます。うちの国は四季が綺麗で、冬の雪のように白い髪ということで、冬からとってまふゆってつけてもらったんです。17歳です。よろしゅう」
「まふゆ、か。冬の雪から……綺麗な名前だな」
レオンハルトは感心したように、まふゆの名前を口の中で繰り返した。その響きと由来を、純粋に美しいと感じているようだ。
「俺は22歳で、セリウスは19歳だ。見てくれは若いが、少しばかり年嵩でな。だが、学園ではお前たちと同じ新入生だ。同級生として、気兼ねなく接してくれ」
彼はそう言うと、親しみを込めてにっと笑う。その笑顔は、年上の余裕と頼りがいを感じさせた。
一方、セリウスはまふゆの名前の由来を聞いて、何かを思うところがあったのか、少し黙り込んでいた。やがて、ぽつりと呟く。
「……まふゆ。……まあ、いい名前なんじゃないの」
少しだけ、素直な言葉が零れる。その視線はまだ少しだけ泳いでいるが、敵意がないことは明らかだった。
「さて、挨拶も済んだことだし、今度こそ教室へ向かおうか。A組の教室は……あっちの渡り廊下を抜けた先だな」
レオンハルトが案内するように前を歩き始める。セリウスもそれに続いた。
二人とも、自然とまふゆがついてくるのを待っているようだ。
その一連の光景を、柱の影から見ていた一人の男の目が、僅かに細められる。
「まふゆ」
その名を、彼は音もなく唇だけで形作った。そして、気配を完全に消したまま、三人の後を追うように静かに歩き出した。




