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そしてまふゆがそれを口に入れた瞬間……
「んんー……っ♡」
まふゆは幸せそうな声を出し、蕩けた表情になる。
「こ、これは、神のお菓子かなんかなん…!?」
まふゆの口に入れた『ユキロン』は、想像を遥かに超える食感と味だった。
もちっとした歯触りの直後、マシュマロよりも軽く、わたあめのように儚く、しゅわっと口の中で溶けていく。そして後から追いかけてくるのは、濃厚で優しいミルキーな甘さ。
初めての体験に、まふゆの菫色の瞳はうるうると潤み、頬は幸福感でほんのり赤く染まっていた。語彙力を失い、出てきたのは神への問いかけだった。
そのあまりにも幸せそうで、無防備で、少し官能的ですらある表情と声に、三人の男たちは三者三様の反応を見せる。
「ははっ、そりゃ大袈裟だろ。……けど、まあ、気に入ったなら何よりだ」
彼は一瞬、まふゆの蕩けた表情にどぎまぎして視線を逸らすが、すぐに豪快な笑顔で誤魔化す。
自分が買った(と主張したい)お菓子で彼女がこれほど喜んでくれている事実に、言いようのない満足感と誇らしさが胸に広がる。その笑顔を守りたい、と強く思った。
「か、神のお菓子って……君は大袈裟だな……。でも、そんなに喜んでくれるなら、僕も嬉しいよ」
彼はまふゆの表情から目が離せず、自分の頬まで熱くなるのを感じていた。喜びを素直に表現する彼女が眩しくて、少し照れくさくて、でも心臓がトクンと高鳴るのを止められない。
彼も一口ユキロンを食べてみるが、その味よりも目の前のまふゆの顔の方が気になって仕方なかった。
「……そうか」
ミカゲは短く答えるだけだが、その黒い瞳は、普段の無感情さが嘘のように、じっとまふゆの蕩けた顔を焼き付けていた。
他の二人のように言葉には出さないが、独占欲がさらに強く、深く根を張っていくのを感じる。
こいつを幸せにできるのは俺だけでいい。こいつのこんな顔を、他の誰にも見せたくない。彼は静かにユキロンを口に運びながら、内心で暗い炎を燃やしていた。
三者三様の想いが交錯する中、まふゆは二つ目のユキロンに手を伸ばし、至福の時間を満喫していた。
「……みんな、今日はほんまにおおきに」
女子寮の門の前。すっかり陽も落ちて、魔法の灯りが辺りを優しく照らしている。
まふゆはぺこりと深く頭を下げた。今日の楽しかった放課後、そして美味しいお菓子の思い出が胸に広がり、自然と感謝の言葉がこぼれる。
「また明日、ね!」
彼女は名残惜しそうに、しかし明るい笑顔で三人に手を振った。
その笑顔と別れの挨拶に、三人はそれぞれ返す。
「おう、また明日な! 気をつけて入れよ」
彼は大きな手で無造作に手を振り返す。その表情は、一日の終わりを惜しみつつも、どこか満たされたような、穏やかなものだった。
まふゆの喜ぶ顔を間近で見られたことが、彼にとっては何よりの報酬だった。
「……うん、また明日。……その、今日は、楽しかった。ありがとう」
セリウスは少し照れくさそうに視線を逸らしながらも、素直な気持ちを口にする。彼の白い頬が、魔法の灯りの下でほんのりと赤く見える。
まふゆと過ごす時間が、彼の中でどんどん特別なものになっていることを自覚していた。
「……ああ」
ミカゲは短く応えると、小さくこくりと頷いた。彼は手を振ったりはしない。ただ、寮の中へ入っていくまふゆの背中を、その姿が見えなくなるまで、黒い瞳でじっと見送っていた。
その視線には、他の二人にはない、守護者としての強い意志と、獲物を見定めるような鋭さが混じり合っていた。
三人は、まふゆの姿が完全に寮の中に消えたのを確認すると、ようやく踵を返す。
帰り道、三人の間に会話はない。
しかし、気まずさも、お菓子を巡るくだらない争いも、今はもうない。
ただ、同じ少女と過ごした温かい時間の余韻と、「また明日」という約束の響きだけが、彼らの胸の中に静かに満ちていた。
第三話・了




