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(な、何よあいつ……)
自分の邪魔をされたシャノンは心の中でわなわなと震えていた。
(あ、あたしだって。あたしだって……まふゆと友達になりたかったのに!!)
……それが、シャノンの本音だった。
今までの思わせぶりな態度は全て、まふゆの友達になりたいが故。しかし獣人の猫族は基本的にはツンツンした態度であり、素直になれないのが特徴。彼女の態度はそのせいだった。
(何よ……何よまふゆんって!馴れ馴れしいのよあのダークエルフの小娘!アルビノエルフは、ううん、まふゆは……聖女なの!あんたみたいなのが気軽に呼んでいい存在じゃないんだから!!)
そんなシャノンの思惑には当然気づかず、まふゆは自分と同じアルビノエルフの生徒がいないか、無意識に探すようにキョロキョロと辺りを見回した。
自分と同じ存在がいれば、少しは心強いかもしれない。そんな淡い期待を込めて、彼女はイリヤに問いかける。
「……あの、うち以外にアルビノエルフはおらへんのですか?」
その純粋な質問に、イリヤは少しだけ目を伏せ、慈しむような、それでいてどこか寂しげな微笑みを浮かべた。
「……いいえ。残念ながら、今この学園に在籍しているアルビノエルフは、あなた一人だけです」
彼女は静かに、しかしはっきりと告げた。
「アルビノエルフは、ただでさえ希少なエルフ族の中でも、特に稀有な存在。文献によれば、数百年、あるいは千年に一度生まれるかどうか、と言われるほどですから。私自身、あなたにお会いするまで、その存在を実物で目にしたことはありませんでした」
イリヤの言葉に、医務室にいた他の生徒たちが小さくざわめく。
「そんなにすごいの……?」
「千年に一度……」
悪意のない、純粋な好奇の視線がまふゆに集まった。
「だからこそ、大切にしなければなりません。あなたのその力は、他の誰にも真似できない、尊いものですから。……ですが、それ故に、孤独を感じることもあるでしょう。何か困ったことがあれば、いつでも私を頼ってくださいね」
イリヤはそう言って、まふゆの肩に優しく手を置いた。その手はひんやりとしていたが、不思議な安心感があった。
この学園で、唯一のアルビノエルフ。
まふゆの肩にずしりと、しかし温かくのしかかった。
「はい、わかりました」
イリヤの言葉に、まふゆはこくりと頷く。
学園で唯一という事実に少しだけ心細さを感じたが、目の前の教官の優しい眼差しに、不安が和らいでいくのを感じる。
「それにしても、治癒術専門は女性が多いんですね」
医務室に集う、穏やかな雰囲気の生徒たちを見回しながら、素朴な疑問を口にする。午前中の戦闘訓練では男女問わず多くの生徒がいたが、ここは全く空気が違う。
その言葉に、イリヤはくすりと小さく笑った。
「ええ、そうですね。治癒術というのは、力や速さではなく、繊細な魔力コントロールと……何より、他者を癒したいという『心』が求められる分野ですから。どうしても、性情が穏やかな者が集まりやすい傾向にあります」
彼女は少し間を置いて、言葉を続けた。
「もちろん、男性の治癒術師がいないわけではありません。ですが、彼らの多くは、治癒術と並行して攻撃魔術や剣術も修める『聖騎士』のような道を目指します。純粋な後方支援専門を志す男性は、やはり少ないですね」
なるほど、と他の生徒たちも頷いている。
「……まあ、男の子たちは、どうしても誰かを守るために『前線で戦う力』を求めたがるものなのよ。……あなたの周りにいる、あの三人のようにね」
イリヤは意味深な笑みを浮かべ、まふゆの顔を覗き込んだ。その言葉に、まふゆはどきりとして、レオンハルト、セリウス、ミカゲの顔を思い浮かべる。
(イリヤ先生……うちらのこと、見てはったんかな……?)
イリヤの言葉は、まるで今までの四人のやりとりを知っているかのようだった。




