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静かな廊下を歩き、ようやくたどり着いた「第一医務室」。
まふゆが扉をそっと開けると、そこに広がっていたのは、清潔なシーツのかかったベッドがいくつも並ぶ、広々とした空間だった。
(女の子ばっかりや……)
そして、すでに集まっていた生徒たちは、見事に女性ばかりだった。
柔らかい毛並みを持つ獣人の少女、尖った耳が可愛らしいエルフの少女、そして人間族の少女たち。皆、どこかおっとりとした、戦いとは縁遠そうな雰囲気を持っている。
彼女たちは、まふゆの姿に気づくと、にこやかに会釈を返してくれた。まふゆの張り詰めていた空気が、ふわりと和らぐ。
「あら、あなたが最後の一人かしら。さ、こちらへどうぞ」
部屋の奥から、柔らかな声が聞こえてきた。
声の主は、白衣をまとったダークエルフの女性だった。
浅黒い肌に、腰まで届く美しい銀髪が映えている。年齢は二十代後半だろうか、穏やかながらも理知的な雰囲気を漂わせていており、ダークエルフ特有の捻くれっぽさは感じられない。
彼女は、まふゆの真っ白な髪と菫色の瞳を一瞬だけ見つめると、優しく微笑んだ。
「初めまして。私がこの特別講義を担当する、保健教官のイリヤ・ノクティスです。あなたは……水鏡まふゆさん、ですね。お噂はかねがね」
イリヤと名乗った教官は、手元の名簿を確認しながら、まふゆを手招きする。
「ここは戦場における後方支援、特に治癒術の専門家を育成するための場所。あなたのようなアルビノエルフの方に来ていただけて、私も嬉しいわ」
彼女の言葉には、何の裏も悪意も感じられない。純粋な歓迎の意が伝わってきて、まふゆは少しだけほっと胸を撫で下ろした。
「……あっ」
そしてそんなまふゆに反応した獣人の少女、シャノン。
彼女は本来治癒術には興味が無いし、どちらかと言えば前衛で戦う戦闘スタイルだ。
それでも何故こちらの授業を選択したのか。
答えは単純明快。こちらならまふゆと必ず接触出来ると踏んでいたからだ。
「……あの、」
シャノンがまふゆに声をかけようとした、その時だった。
「あーっ!アルビノちゃんじゃーん。初めましてー、あーしはリリア。リリア・ノクティスでーす」
二人の間にギャルっぽい、しかし何処かぼんやりとした雰囲気のダークエルフの少女が割り込んでくる。
「ノクティス……?」
「お、気づいたー?あーし、イリヤお姉ちゃんの妹ー。ダークエルフなんだけど戦闘苦手でさー。薬作ったりして支援してんだよねー」
ダークエルフとは本来、エルフの中でも攻撃的で捻くれた性格の種族。
治癒術は苦手で、前衛職で戦う者が多いがこの姉妹はどうやら違うようだ。
「あーし、噂のアルビノちゃんと仲良くなりたかったんだあ。これから仲良くしろしー?」
「あ、はい、よろしゅう……!うち、水鏡まふゆいいます……!」
「なるほど。じゃあまふゆんだねー」
そんな二人のやり取りを諌めるように、イリヤがコホン、と咳払いをする。
「リリア、そこまで。そろそろ授業を始めましょう?」
「はーい。ごめんなさーい」
リリアはへらへらと笑いながら、自分の席へと戻る。




