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「クラス表を、見ればええんやろか…」
まふゆは人の流れについて行きながら貼られているクラス表を見る。
「あ、あのっ、うちも見せてもろてええですかっ」
まふゆの声は、周りの喧騒にかき消されてしまう。
壁に張り出されたクラス分けの紙の前は、既に黒山の人だかりだ。皆が自分の名前を探そうと身を乗り出しているため、背の低いまふゆでは到底、その向こう側を覗くことはできない。
つま先立ちをしてみたり、少し横にずれてみたりするが、見えるのは屈強な獣人の背中や、背の高いエルフの綺麗な髪ばかり。
(あ、あかん……ほんまに見えへん……)
どうしたものかと途方に暮れていると、ふと、人混みの向こうから声がした。
「ん? ああ、俺とセリウスは同じクラスか。……A組、だな」
その声に、隣にいた白銀の髪の青年が嬉しそうに頷く。
「よかった。兄さんと一緒なら心強いよ」
彼らはどうやら自分たちのクラスを確認し終えたようだ。
その会話が聞こえた直後、まふゆのすぐ後ろから、すっと手が伸びてきた。
その手は人混みを軽々と指し示し、紙の一点を正確に捉える。
「君もクラスが知りたいんだろう?名前、教えなよ」
「えっ、あ……うち、水鏡……」
「ふうん。珍しい名前。えっと……ああ、そこだ。君の名前、A組にあるよ。僕たちと一緒」
振り返ると、白銀の髪の青年が、少し照れたような、ぶっきらぼうな表情で立っていた。その隣では、兄の赤髪の青年が「親切なことだ」とでも言うように、穏やかな笑みを浮かべている。
彼の指差した先には、確かに【A組】の名簿の中に「水鏡まふゆ」という名前があった。そして、そのすぐ上には「レオンハルト・アルヴァレイン」、すぐ下には「セリウス・アルヴァレイン」の名前が並んでいる。
さらに視線を滑らせると、名簿の隅の方に、ぽつんと「ミカゲ」という名前も見えた。
「同じクラスなら、一緒に行くか。迷うよりはいいだろう」
赤髪の青年が、ごく自然にそう声をかけてきた。
「あっ、あなたはさっきの……」
まふゆは新入生代表でしっかりと話していた彼の姿を思い出す。
「ほんま、おおきに。えらい助かります」
まふゆはぺこりと礼をする。
まふゆの丁寧な、しかし少し珍しい響きを持つ言葉に、彼は目を丸くする。
そしてすぐに、興味深そうな笑みを浮かべた。
「はは、気にするな。困っている者を見過ごすわけにもいかないだろ?それに、その話し方は……珍しいが、どこの国から来たんだ?」
彼は嫌味なく、純粋な好奇心でそう尋ねる。
一方、その隣で話を聞いていた白銀の髪の青年は、まふゆの言葉を聞いて少し顔を赤らめると、ぷいとそっぽを向いてしまった。
「……別に、興味無いし。さっさと教室行かない?」
口ではそう言いながらも、その視線はちらちらとまふゆの方を気にしている。そのツンとした態度に、兄は苦笑を漏らした。
「こら、セリウス。……すまないな、弟は少し人見知りなだけで、悪気はないんだ。俺はレオンハルト。こっちはセリウスだ。改めて、よろしく頼む」
人垣は少しずつ空いてきており、三人の周りには僅かな空間が生まれていた。




