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四人が同じテーブルに着き、今日の授業の感想などを話し合っていたその時。
「本日限定!フレッシュミルクプリン、残り10個でーす!早い者勝ちですよー!」
デザートコーナーの調理担当者から、威勢のいい声が響き渡った。
その声に、まふゆの耳がぴくりと動く。
「じ、10個限定、やって……!?」
彼女の視線が、料理の並ぶカウンターからデザートコーナーへと釘付けになる。そこには、ガラスの器に入った真っ白なプリンが、きらきらと輝いて見えた。
……食べたい。
その一言が、彼女の瞳にはっきりと書かれている。
しかし、その声を聞きつけたのはまふゆだけではなかった。
「限定プリンだって!」
「急げ!」
「俺が先だ!」
近くにいた生徒たちが、我先にとデザートコーナーへ殺到する。
屈強な獣人や、すばしっこい種族の生徒たちが、あっという間に人だかりを作ってしまった。
この人波をかき分けて、小柄なまふゆがプリンを手に入れるのは、どう見ても難しそうだった。
「お、なんだなんだ。……プリンか、まふゆ、食いたいのか?」
レオンハルトが人だかりを見て苦笑する。
「……あの状況じゃ、君が行っても押し潰されるだけだ。諦めた方が……」
セリウスが冷静に状況を分析し、心配そうに眉をひそめる。
その、刹那。
シュッ、と空気を切る音だけがした。
まふゆの隣にいたはずのミカゲの姿が、一瞬で消える。
次の瞬間には、彼は人だかりの向こう側、デザートカウンターの真ん前に立っていた。まるで最初からそこにいたかのように。
殺到していた生徒たちが、突如現れた黒い影に「うおっ!?」「なんだ!?」と驚き、思わず動きを止める。
ミカゲはそんな周囲の喧騒など一切意に介さず、調理担当者に無言で指を一本立てて見せた。
「……は、はい!プリン、一つですね!」
気圧された担当者が、慌ててプリンを一つ、彼の前に差し出す。
ミカゲはそれを受け取ると、再び影に溶けるようにして人混みを抜け、何事もなかったかのようにまふゆの隣に戻って来る。
そして、無言のまま、手にしたミルクプリンをまふゆのトレイの上に、ことりと置いた。
「「…………」」
レオンハルトとセリウスは、そのあまりにも鮮やかすぎる一連の動きに、呆然と口を開けている。
「……食え」
彼はそれだけ言うと、満足そうに(表情は変わらないが、雰囲気でそう感じられた)まふゆを見つめた。
「み、ミカゲさんっ……!」
まふゆは、自分のトレイにそっと置かれたミルクプリンと、ミカゲの顔を交互に見つめた。
驚きと、嬉しさと、少しの戸惑いが入り混じった感情で胸がいっぱいになる。
さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返り、彼の黒い瞳だけが、まっすぐに自分を映していた。
「お、おい……今の、どうやったんだ……?」
レオンハルトが、信じられないものを見たという顔でミカゲに問いかける。彼の目にも、ミカゲが一瞬で移動したようにしか見えなかった。
「……影渡り、か。まさか、あんな人混みの中で使うなんて……無茶苦茶だ」
セリウスは呆れつつも、その能力の精密さと、何より「まふゆのためだけ」に使われたという事実に、内心で複雑な感情を抱いていた。自分にはできないやり方で、彼はあっさりとまふゆの願いを叶えてしまった。
しかし、ミカゲは二人の言葉など聞こえていないかのように、ただまふゆを見つめている。
そして、もう一度、ぽつりと呟いた。
「……早く食え。溶ける」
その言葉に、まふゆははっと我に返る。
彼の不器用な優しさが、じんわりと心に広がっていくのを感じた。




