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「うわあ、めっちゃ広いなあ……!」
学食の扉を開けた瞬間、まふゆは思わず感嘆の声を上げた。
故郷である桜の国のどの建物よりも広大で、天井は高く、大きな窓から差し込む光がホール全体を明るく照らしている。様々な種族の生徒たちの活気あるざわめきが、まるで音楽のように響いていた。
「ビュッフェ形式なんや……!すごい……!」
長いカウンターにずらりと並べられた、色とりどりの料理。
獣人向けの豪快な肉料理、エルフ向けの彩り豊かな野菜料理、ドワーフたちが好みそうな香ばしい匂いのするパン。
見たこともない料理の数々に、まふゆの菫色の瞳はきらきらと輝いていた。
その純粋な感動っぷりに、三人はそれぞれ微笑ましいものを見るような顔をしている。
「はは、すごいだろ。ここの学食は、どんな種族でも満足できるように、大陸中の料理が揃ってるんだってよ。好きなものを取るといい」
レオンハルトは誇らしげに胸を張り、まふゆの肩を軽く叩いた。まるで自分の手柄のように振る舞うのが、彼らしい。
「……そんなにはしゃいでると、子供だと思われるよ。ほら、トレイを取って。……どれにするか、迷うなら一緒に見てあげるから」
セリウスは呆れたような口調で言いつつも、まふゆの隣に並び、空のトレイを一枚手渡してくれる。その横顔には、隠しきれない優しさが滲んでいた。
「…………」
ミカゲは何も言わない。だが、その視線はまふゆから一瞬も離れない。彼の興味は、豪華な料理の数々ではなく、ただ目の前で目を輝かせている少女、その一人にだけ注がれていた。
彼は、まふゆが毒の入ったものを口にしないか、不審な人物が近づかないか、ただそれだけを警戒している。
「ほな、みんなのオススメのやつ、ひとつずつ取ることにしますわ」
無邪気な笑顔でそう提案するまふゆに、三人はそれぞれ異なる料理をオススメする。
「おう、いいぞ!それならこいつは外せないな!」
レオンハルトはそう言って、大きな鉄板でジュージューと音を立てている分厚いステーキを指差した。湯気と共に立ち上る香ばしい匂いが食欲を刺激する。
「『グリズリーベアのグリル』だ。獣人族の連中に人気のメニューだが、スタミナがつく。午後の授業に向けて、しっかり食っておかないとな」
彼は自信満々にそう言って笑った。
「……はあ、兄さん。肉ばっかりじゃ、栄養が偏るだろ。こっちの方がいい」
セリウスが指差したのは、レオンハルトの選んだ料理とは対照的な、色鮮やかな一品だった。
「『エルフの森風リゾット』。米に色々なハーブとキノコを混ぜ込んだもので、魔力の回復を助ける効果があるんだ。……君にも、合うと思う」
彼は少し気恥ずかしそうに、でも確信を持ってそう言った。まふゆの体質を気遣う、彼らしい選択だった。
「…………」
ミカゲは料理には目もくれず、まふゆが取るであろう皿をじっと見ている。
そして、無言のまま、カウンターの隅に置かれていた黒いパンを一つ、指差した。
「……これ」
それは『影麦のパン』と呼ばれる、影人の主食だった。見た目は固そうだが、栄養価が高く、腹持ちがいい。
彼が自分の主食を勧める。それは、彼なりの最大限の「共有」の意思表示だった。
レオンハルトの肉料理、セリウスのリゾット、そしてミカゲの黒パン。
三者三様のオススメが、まふゆの前に並んだ。
「わあ……!どれもめっちゃ美味しそうやねえ…!」
まふゆは嬉しそうに頷くと、トレイの上にそれぞれの料理を少しずつ盛り付けていく。
どれから食べようか、胸を躍らせながら。




