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ゴブリンの威嚇を前に、まふゆは恐怖をぐっと堪え、胸の前で両手を組んだ。
自分の役目は、みんなを護ること。その一心で、彼女は瞳を閉じ、体内の魔力を練り上げる。
「……防護魔法!セイクリッドシールド!」
彼女の詠唱に応え、純白の魔力がふわりと溢れ出す。
その光は三筋に分かれると、それぞれがレオンハルト、セリウス、そしてミカゲの身体を包み込んだ。
彼らの身体の周りに、淡く、しかし確かな光の膜が形成される。
「これは……!」
大剣を構えたまま、レオンハルトが驚きの声を上げる。身体が軽くなり、力がみなぎってくるような感覚。これがアルビノエルフの支援魔術か、と彼はその効果の絶大さに舌を巻いた。
「……すごい魔力だ。身体の内側から守られてる感じがする……」
セリウスも自身の腕に浮かぶ光の膜を見つめ、目を見張る。ただの防御壁ではない。自身の魔力と共鳴し、防御力を増幅させるような、高度な術式だ。
そして、後方のミカゲ。
彼は何も言わない。だが、その瞳がわずかに見開かれていた。
本来、白魔術は影人にとって猛毒のはず。しかし、まふゆの放った光は、彼を傷つけるどころか、温かいヴェールのようにその身を包み、守護している。
霊廟での時と、同じような感覚に包まれる。
(……俺を、拒絶しない光……)
昨夜に続き、彼の常識がまた一つ、目の前で覆された瞬間だった。
まふゆの強力な支援を受け、レオンハルトの瞳に闘志が宿る。
「よし、一気に行くぞ!セリウス!」
「言われなくても!」
兄弟は同時に駆け出した。
レオンハルトが大剣を振りかぶり、一体のゴブリンに斬りかかり、セリウスはもう一体のゴブリンに向かって、その手から鋭い魔力の矢を放った。
「グギャッ!」
まふゆの支援魔術を受けた兄弟の連携は、見事というほかなかった。
レオンハルトが大剣を力任せに振り下ろすと、ゴブリンの一体は悲鳴を上げる間もなく吹き飛ばされ、木の幹に叩きつけられて動かなくなった。人間の彼が、魔導機もなしにこれほどの膂力を発揮できるのは、日々の鍛錬の賜物だろう。
もう一体のゴブリンは、セリウスの放った魔力の矢を胸に受け、苦悶の声をあげて後ずさる。
「これで、終わりだ……!」
セリウスは追撃の手を緩めない。立て続けに二の矢、三の矢を放ち、ゴブリンを正確に射抜いていく。ハーフエルフである彼の魔術は、人間であるレオンハルトの物理攻撃とはまた違う、洗練された美しさがあった。
……あっという間に二体の魔物が無力化される。その見事な連携と圧倒的な強さを目の当たりにして、まふゆは恐怖を忘れ、思わず声を上げた。
「……すごいすごい!」
彼女は兄弟の強さに目を輝かせる。
自分の力が、彼らの強さをさらに引き出している。その事実が、恐怖よりも大きな喜びと興奮を彼女にもたらしていた。守られてばかりの自分でも、こうしてみんなの役に立てるのだ。
その純粋な喝采に、セリウスはちらりとまふゆの方を見て、少し照れくさそうに鼻をそらした。
「……こ、これくらい当然だ。君の支援があれば、もっと強い相手でも問題ない」
「はは、頼もしいな。だが油断はするなよ。ミカゲ、周囲に他の気配は?」
レオンハルトは剣を肩に担ぎ直し、後方のミカゲに問いかける。
ミカゲは静かに首を横に振った。その瞳は、戦闘の興奮に頬を染めるまふゆを、じっと見つめていた。




