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翌朝。
学園の鐘が、新しい一日の始まりを告げている。
まふゆは自室のクローゼットの前で、少しだけ考え込むような表情を浮かべていた。
「この学校、制服無いんよね……」
ぽつりと呟く。
彼女の故郷である桜の国では、定められた美しい和装の制服があった。しかし、この王立特異能力者統合学園では、制服の着用義務はない。
それは、多様な種族が集うがゆえの配慮。それぞれの種族が持つ力を最大限に引き出す、あるいは逆に抑制するための衣服は、一様ではないからだ。
結局、まふゆはいつも通りの、清らかでどこか浮世離れした白いドレスのような装束に袖を通す。アルビノエルフである彼女の力を最も自然に引き出してくれる、馴染んだ衣服だ。
鏡に映る自分の姿を見る。白い髪、緋色の瞳、雪のような肌。そして、昨日エドウィンに「果実」と暗喩された、ドレスの上からでもわかる豊かな胸の膨らみ。
そのことを思い出し、彼女は無意識に胸元を腕で隠した。昨日の恐怖が、まだ心の奥に澱のように溜まっている。
(……ミカゲさん、もう学校に、来てるやろか)
ふと、彼のことを思う。
感情の読めない、黒装束の影人。しかし、昨夜、自分を守るために見せた絶対的な強さと、不器用な優しさ。
彼に会いたいような、でもどんな顔をして会えばいいのかわからないような、複雑な気持ちが胸の中で渦巻いていた。
まふゆは深呼吸を一つして、心を落ち着ける。
「よし」と小さく気合を入れると、彼女は部屋の扉を開け、教室へと向かった。
廊下は、昨日と同じように様々な種族の生徒たちで賑わっている。しかし、今日のまふゆには、その光景が昨日とは少し違って見えた。




