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「……行きませんっ!!」
凛とした、しかし震えを抑えきれない声が霊廟に響く。
まふゆはミカゲの背後から、強い意志を込めてエドウィンを睨みつけた。
そして、影人は影さえあれば何処にでも行ける……ミカゲなら、この状況から逃げ出せるかもしれないと思いつく。
(でも、今は月明かりで霊廟の中は明るい……影が、足りひん……!)
彼女の頭脳が瞬時に答えを導き出す。自分がすべきことは、ただ一つ。
「雲よ!出てきぃ!!」
彼女が天に向かって叫ぶと、その清らかな魔力に呼応し、霊廟の上空にわかに暗雲が立ち込める。
先ほどまで霊廟内を照らしていた月光が、厚い雲に遮られ、急速に失われていった。
霊廟の中は一気に深い闇に包まれ、人々の輪郭すら曖昧になる。
それは、影に生きる者にとって、絶対的な領域の現出だった。
「なっ……!月を隠しただと!?小賢しい真似を……!」
エドウィンの焦った声が響く。
闇の中で、黒ローブたちが動揺し、陣形がわずかに乱れた。
その一瞬の隙を、ミカゲが見逃すはずがなかった。
「──行くぞ」
短い言葉と共に、ミカゲはまふゆの手を強く握る。
次の瞬間、彼の身体は足元の濃くなった影に、音もなくずぶずぶと沈み込んでいった。まるで、水面に溶けるインクのように。
握られた手を通して、まふゆの身体もまた、影の中へと引きずり込まれていく。冷たくも温かくもない、不思議な感覚。
「逃がすかッ!捕らえろ!」
エドウィンの怒号が響くが、もう遅い。
二人の姿は完全に影の中に消え、そこにいたという痕跡すら残っていなかった。
闇に包まれた霊廟には、獲物を取り逃がした捕食者たちの、無様な怒りだけが取り残された。




