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「……っ!」
ミカゲは躊躇わなかった。
エドウィンが嘲笑し、まふゆが絶望に叫ぶ、その一瞬。
彼は魔力暴走のリスクも、それが毒であることも承知の上で、まふゆの手を止めさせるために、その光の中に自らの手を突っ込んだ。
ジュウウウゥッ!
肉が焼ける、おぞましい音。
ミカゲの手が、聖なる光に触れた部分から黒い煙を上げて灼け爛れていく。
「あ、ああっ……!ご、ごめんなさい……うち、うち、のせい、で……」
激痛が全身を貫くはずなのに、彼は呻き声一つ上げず、ただ固く唇を噛み締めてまふゆの小さな手を強く握りしめた。
「……もう、いい」
焼け付くような痛みの中、彼は絞り出すように言った。
その声は震えていたが、まふゆを責める響きは一切ない。
……するとその瞬間、信じられないことが起こった。
ミカゲを焼いていたはずの、まふゆの白魔術の光。
その性質が、ふわりと変化したのだ。
灼き尽くすような浄化の光から、傷を優しく包み込むような、穏やかで温かい『影色の光』へと。
それは白でも黒でもない、月明かりのような、静かで優しい光だった。
ミカゲの手を焼いていた痛みは消え、代わりに爛れた傷が急速に癒えていく。黒い煙は収まり、彼の傷ついた皮膚は元通りになっていった。
「……なんだ……これは……?」
彼は己の癒えていく手と、それを包む不思議な光、そして涙を流しながら呆然とするまふゆを、信じられないものを見る目で見つめた。
この現象を、ただ一人、エドウィンだけが正しく理解していた。
彼の嘲笑は消え、その顔は驚愕と、そして狂信的なまでの歓喜に染まっていた。
「……そうか……!そうだったのか!『アルビノの白魔術は、対象の性質に合わせて効果を変える』……古文書の記述は真実だった!!」
彼は恍惚とした表情で、両手を天に掲げる。
「素晴らしい!なんて素晴らしいんだ、水鏡まふゆ!君は毒すら薬に変える!君こそが至高の触媒!私の研究を完成させる、唯一無二の存在だ!!」
その狂気に満ちた叫びは、もはや誰にも止められなかった。エドウィンのまふゆへの執着は、今や絶対的なものへと変わっていた。
「……ミカゲさん……!」
まふゆは、己の力が引き起こした奇跡と、目の前の彼の無事を確かめるように、心配そうにその名を呼ぶ。
涙で潤んだ菫色の瞳が、まっすぐにミカゲを見つめていた。
その声に、ミカゲはハッとして我に返る。
彼は癒やされた自分の手と、まふゆの顔を交互に見た後、彼女に向けられていたエドウィンの狂的な視線に気づいた。
(……こいつの狙いは、まふゆのこの力か)
状況は悪化した。エドウィンの執着は、今や狂信に変わっている。もはや、力尽くで奪いに来るだろう。
ミカゲは、癒やされたばかりの手を強く握りしめる。
まふゆの力がもたらした全能感が、まだ身体に残っていた。
「……案ずるな。俺は無事だ」
彼は短く、しかし力強く答える。その声にはもう、先程までの焦りはない。代わりに、絶対的な守護者としての覚悟が宿っていた。
「あんたは、やはり俺のそばにいろ。……絶対に、こいつらには渡さない」
そう言うと、彼は再びまふゆを背にかばい、エドウィンと対峙する。
その黒曜石の瞳は、以前にも増して鋭く、冷たい光を放っていた。それは、自らの「所有物」に手を出そうとする侵入者を、決して許さないという独占欲の光。
一方、エドウィンはその光景を見て、さらに恍惚とした笑みを浮かべる。
「素晴らしい……!実に素晴らしい!影人すら魅了し、その力を増幅させる!君こそは、まさに奇跡!さあ、私のもとへ来なさい、水鏡まふゆ!その力で、私を更なる高みへと導くのだ!」
彼は両腕を広げ、狂気に満ちた声で叫ぶ。
その言葉を合図に、包囲していた黒ローブたちが再び魔導機を構え、禍々しい魔力を高め始めた。霊廟の中の緊張は、爆発寸前まで高まっていく。




