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「ミカゲさん……」
人の剥き出しの悪意に初めて直面し、まふゆの菫色の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちる。
しかし、彼女はただ守られているだけの存在ではなかった。
(うちも、戦わな……!ミカゲさんを、一人にはさせへん……!)
純粋な善意と、彼を助けたいという一心。
まふゆは震える手で印を結び、桜色の唇から澄んだ声で呪文を紡ぎ始める。
「万象に宿りし白き息吹よ、彼の者の四肢に力を、その魂に闘志を……!」
それは、対象の身体能力を一時的に飛躍させる支援系の白魔術。彼女の魔力に呼応し、淡く、清らかな光がその手に集束していく。
その光景を見た瞬間、ミカゲの表情が初めて凍りついた。
「──やめろ、まふゆ!」
今まで聞いたことのない、焦燥と苦痛に満ちた叫び。
彼は弾かれたように振り返り、まふゆの手を止めようと手を伸ばす。
その純粋な治癒と支援の光は、影に生きる彼にとって、触れれば身を焼く猛毒に他ならないのだ。
その滑稽で、悲劇的なすれ違いを見て、エドウィンは腹を抱えて大笑いした。
「ハッ、ハハハハハ!傑作だ!なんて素晴らしい無知!なんて純粋な愚かしさだ!」
甲高い笑い声が霊廟に響き渡る。
「まふゆ君、君は知らないのかい!?影人にとって、君たちエルフの白魔術は『毒』なんだよ!君は彼を助けるどころか、内側から焼き殺そうとしているんだ!」
その残酷な真実に、まふゆの思考は完全に停止する。
手に集まった優しい光が、今は禍々しい呪いのように見えた。
ミカゲの悲痛な顔と、エドウィンの嘲笑。
すべてが、悪夢のようだった。
「あ、あかん!止まって!止まって!!!!」
まふゆの悲痛な叫びが霊廟に響き渡る。
自分の善意が、ミカゲを殺す刃に変わってしまった。その恐ろしい事実に、彼女の心は張り裂けそうだった。
パニックに陥り、魔力の制御が効かなくなる。手に集まった純粋な光は、暴走寸前のエネルギーとなって激しく明滅し始める……!!




