1-9
「……魔導機、か」
「魔導機……?」
ミカゲが呟いた言葉に、まふゆが反応する。
魔導機。
本来、エルフ以外の種族は魔術を使うことが出来ないが、これを装備すると誰でも魔術が使えるようになるという夢のような機械だった。
しかし、それはエルフ族への非人道的な実験によって作られた機械。いうなれば、エルフ族の命を媒体にしているのだ。
「……あ、あの、これは……なんなんです……?」
まふゆの震える声が、張り詰めた霊廟に響く。
状況が理解できず、目の前で繰り広げられる敵意の応酬に、ただただ戸惑っている。
その純粋な怯えが、エドウィンの嗜虐心を刺激した。彼はうっとりとした表情で、まふゆを見つめる。
「これは、歓迎の準備だよ、まふゆ君。君を、《白檻会》へ丁重に『お招き』するためのね」
《白檻会》……それは表向きはエルフ族を保護するための施設だと聞いていた。
しかし、その実態は魔導機を量産するための非人道的な組織。エドウィンはその組織に所属しているのだと、告げた。
彼はゆっくりと手を広げ、芝居がかった仕草で言った。
「君は特別なんだ。そのアルビノの血……そして、そのたわわに実った果実。君のすべてが、私の研究を完成させるための、最後のピースなのだから」
その言葉は、もはや教師が生徒に向けるものではない。
研究者が実験体に向ける、歪んだ欲望と執着に満ちていた。
エドウィンの視線が再びまふゆの胸元に注がれ、その粘つくような眼差しに、まふゆは無意識に後ずさる。
その動きを、ミカゲが背中で感じ取った。
「……下衆が」
短く、吐き捨てる。
憎悪と侮蔑を込めたその一言は、エドウィンに向けられたものだった。
「……まふゆ。下がっていろ。絶対に、俺から離れるな」
彼は短剣を構え直し、まふゆにだけ聞こえるように、しかし絶対的な力強さを持って告げる。
まふゆが不安げにミカゲの背中に隠れると、彼の背中はピクリとも動かない、絶対的な防波堤のようだった。
「フフ……実に感動的な主従関係だ。だが、いつまで持つかな?」
エドウィンが嘲るように言うと、彼の両脇にいた警備兵が動く。
一人は腰の剣を抜き、もう一人は魔導機を起動させ、炎の弾丸をミカゲに向けて放った。
「……チッ」
ミカゲは舌打ち一つで、短剣を逆手に持ち替える。
飛来する炎の弾丸を、最小限の動きで横に跳んで回避。その勢いのまま、剣を抜いた警備兵の懐に影のように滑り込んだ。
カンッ!と鋭い金属音が響く。
警備兵が振り下ろした剣を、ミカゲは短剣で弾き返す。力では劣るはずなのに、相手の力を巧みに受け流し、逆に体勢を崩させた。
「──遅い」
冷たい声と共に、ミカゲの肘が警備兵の鳩尾にめり込む。
「ぐっ…!」という短い呻き声を上げ、大柄な男が崩れ落ちた。
その一連の動きは、わずか数秒。
だが、その隙を逃すほどエドウィンの手下は甘くない。
包囲していた黒ローブたちが一斉に動き、魔導機から光の矢や氷の礫を放つ。四方八方から迫る魔法の弾幕。
「……!」
ミカゲは即座に判断し、まふゆの腕を掴むと、霊廟の石柱の影へと飛び込んだ。
ドドドドッ!と、先ほどまで二人がいた場所に魔法が着弾し、石畳が砕け散る。
「……まふゆ、無事か」
ミカゲが低い声で尋ねる。
彼の瞳は、油断なく周囲を警戒している。息は少しも乱れていないが、多勢に無勢であることは明らかだった。
「ハハハ!素晴らしい!まるで舞踏のようだね、ミカゲ君!だが、いつまで私の可愛い生徒を守りきれるかな?」
エドウィンの甲高い笑い声が、霊廟に不気味に響き渡った。




