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私のお気に入りの喫茶店には、看板娘のメイドロボットがいる

私のお気に入りの喫茶店には、看板娘のメイドロボットがいる。


髪は緑色で、ポニーテールにしている。どこにでもいる普通のメイドロボットだけれど、個体差なのかただの不良品なのか、ジト目になっているのが特徴だ。私はそのメイドロボットのことを親しみを込めて「れん」と呼んでいる。読みが「あわれ」ではないのがミソだ。で、そのお憐さんは今日は今日とて、閑古鳥の鳴く店内のカウンターの中で何かやっているご様子。何をしているのだろうか。


「よっ、今日は何しているの?」


話しかけると憐はジト目でこっちを見て私の名前と一緒にため息をついた。


「ため息つくことないじゃないの。」


憐はへっと悪態をつくと手に持っている包丁を見せてこう言った。


「寿司作ってんです。」


ここは喫茶店では。

そう思いながらも、思い付きでやってみては失敗ばかりしているここのオーナーのことを思い出せば、まあこんなことがあっても普通の事だった。憐の頭にはいつものメイドプリムではなく鉢巻が巻かれている。形から入るのはまさしくあのオーナーのやることだ。全く今回はどう言う風の吹き回しで寿司なのやら。と言うか憐に寿司なんて作れるのか。


「まさか! 初めてっすね!」


だよねえ。

つたない包丁さばきでネタを切っていく。グズグズになっていく赤身のマグロ。よく見れば出刃包丁ではなく、家庭にある普通の包丁で切っている。そりゃそうもなる。


「こりゃもったいなひ……。」

「雰囲気出てれば問題無いって澪は言ってたんで。」


澪とはここの喫茶店のオーナーのことである。彼女もこの看板娘と同じロボットであるが、一つ等級が上のロボットで、ロボットであるにもかかわらず屋号を持って会社を経営するなんてことも出来る。このお店のように。


この話の流れで澪の名前が出てくると言うこと。やっぱり憐が今やらされていることは、そのオーナーロボットの思い付きで始ている何かなのだろう。喫茶店で寿司。まあ、インパクトは有るわね。でもねぇ……。


憐は酢飯を取り出した。一丁前に木の寿司桶に入っている。それを手に適当な量取ると、切り切れず連なりになった赤身のマグロを手でちぎり、寿司の形に握っていった。にぎにぎ。ぶちっ。にぎにぎ。


「何これ。」


出来上がったそれはシャリは形になっているが寿司とは言えない何かになっていた。と言うかシャリも一部崩れているし。憐はジト目で私を見ながらいかにも食べて欲しそうにしている。どうしよう。


「食べてみます?」

「ン? あ、ああ。まあ、いただきましょうか……。」


憐が寿司のような何かを手に持ち私の口に放り込んだ。途端に香るお酢の匂いと魚の生臭い香り、そしてつぶつぶ米の舌触り。それぞれが別々に主張してきて、全くまとまりが無い。バラバラだ。


「まずい。」


憐も一口つまんで寿司のようなそれを食べた。


「まずいっすねぇ。」


彼女たちカンナ重工のメイドロボットは食べ物を電気に変える炉を持っており、人間の食べ物を食べて生活する。なのでこのように食べ物を食べる。なんともまあ時代は進んだんだな、この光景を見せられた中年のおばさんとしての感想である。


憐は自分が作った寿司もどきに醤油をどばっとかけた。なるほど。醤油の強い味で調えるつもりか。憐はそれを持ってきた茶碗の中に入れるとぐちゃぐちゃに混ぜて一気にかき込んだ。


「おー。」


まあまあ美味しかったらしく、憐はこれならありかもとサムズアップしてみせた。しかしここで、私はあることに気づいた。


「サビってどこ行ったの?」


すり下ろした生わさびが小鉢の中で今か今かと言わんばかりに、きれいな円錐形でおすまししていた。


「おお……おおおお……。」


このまま捨てるわけにはいかない。憐はわさびをそのまま一口で頬張った。食べられないことは無いようだけど、ツンと来るわさびの辛さに口を押さえたりテーブルを叩いたり足を地団太して悶えている。でも自分で作ったからには食べきらなければ食材に申し訳が立たない。なにせ生わさびは高級品。無下にすれば罰が当たる。そしてまだ余っている木桶の酢飯。憐はそっちに気づいて私の顔をジト目の涙目で見て何かを訴えた。私はそんな顔をされてもとニコニコ笑って見せた。憐は口の中のわさびにセンサーを刺されながらジダンダジダンダふみまくっている。かわいそー。


そんな憐れな憐に、新たなる試練が待ち受ける。オーナーの登場だ。


「やってる?」


青いロングヘアの体格のいい女性型のメイドロボット。彼女こそがこの喫茶店のオーナーであるロボット、澪。にこにこしながら暖簾をくぐると、憐のぐちゃぐちゃ具合と余った酢飯を見てこう言った。


「ダメそうね。」


憐は首を振った。傍から見ればその振り方は肯定とも否定とも取れない。しかし澪は状況を見て全て悟ったようだ。澪は余った木桶の酢飯と、冷蔵庫の中にまだ具材が余っているか、とかく冷蔵庫を目線で指し、憐の両肩に手をのせて顔を近づけて憐に耳元でこう囁いた。


「じゃ、自腹ね。」


口に含んだわさびと飲み込めない話を聞きむーむー唸る憐を突き放し「チャオ♪」と言って澪は奥の部屋へと消えていってしまった。確かに作ったのは憐だろうけれども、全部憐が悪いわけでは無かろうに。


「あーー、食べるの少しだけ手伝う?」


憐は涙を流しながらうんうんと首を縦にふって肯定した。果たしてその涙は、入れ忘れていたワサビの小鉢を頬張って出ている涙なのか、それとも自分のことを憐れんで流した涙なのか。まったくこの看板娘は、名前の通りに憐れなメイドロボットである。


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