貸しひとつ
十、
「 おい、ウゴウ、『散歩』で沼を埋めたのか? 」
「 うむ、すこしばかり、臭くてな」
「ヨツ沼か?」
「 そのうちのひとつだわ」
「そうか。 ―― もしや、おれがなかなか『散歩』にいかぬので、かわりにかたをつけてくれたか?」
「 そう思うならば、貸しがひとつだ」
「お、呪いをかけよったな。 まあ、いい。おかげでたすかった」
ジョウカイは釣ってきた魚を七輪のうえで焼いている。
ウゴウはその魚がやけるのを待っている。
ヨツ沼からウゴウに抱かれて帰ってきたユズスケは、そこから五日ほど熱をだしてねこんだ。 寝込んだが、いまは元気になった。元気にはなったが、まえよりすこし、おとなしくなったかもしれない。
あの日、ウゴウから枇杷をもらってジョウカイもヨツ沼へ『散歩』にでたのだが、すでにユズスケにはあの社の《ニヘエ》を『たすける』という『呪い』がかかっており、ようすをみることにした。
きっと、《ニヘエ》にいいつけられて、ユズスケは寺のものやジョウカイのものをなにかもっていこうとするだろうとは思っていたが、それがどうしてか、ウゴウの眉毛をもっていったのには驚いた。
だが、ウゴウをあの沼へやるのはちょうどよくもあった。
なにしろ、ジョウカイが『ようすをみる』と決めてからも、ウゴウはユズスケがずっと気にかかり、まいにちジョウカイに、まだうごかぬか、もううごくか、とせかしてきた。
せかすくせに、おのれがいくとはいいださない。
ユズスケが《ニヘエ》の言ったことを素直にとったおかげで、『ジョウカイにちかいもの』のであるウゴウはヨツ沼へ行き、ユズスケも無事につれかえれた。
だが、ユズスケを泣かせた《ニヘエ》に怒ったウゴウは、《ニヘエ》を金棒でつぶしたあと、まだ腹の虫がおさまらなかったのか、アシ沼までも、中にまだ残っていた《ニヘエ》たちとまとめてつぶしてきたのだろう。
ヨツ沼からアシ沼もなくなり、のこった三つの沼の名は、そのうちに変わるだろう。
つぎでおわります




