ニヘエがおわる
男の顔の毛も、すべて濃く太く、目鼻も際だって大きいうえに、ニヘエを見る目玉は黄色くて、まるで目玉にひびが入ったように縦に黒い線がある。
「 お、 おに!? 鬼じゃ!坊主ではなく鬼ではないか!この嘘つきの畜生め!」
ニヘエは首をちぢめ、ユズスケをののしった。
「おれは嘘なんかついてねえ!あんたがジョウカイさまはダメで、ジョウカイさまの『近く』のもんがいいっていった!」
べそをかきながらもしっかり言い返すその言葉に、『鬼』がわらう。
「ほお、そうか。坊主のほうからまた来られたら、また退治されちまうか。それなら坊主のなにかをもってこさせて、てめえの『呪い』でこの《囲い》のなかによびよせようとしたか? それは惜しかったの。 わしはな、その『ジョウカイ』に毎日こきつかわれておるんでいっつも『近く』におる。ほれ、おまえの望みどおりではないか。ユズスケは、おまえの望みをしっかりとかなえてやったぞ」
いいながら、子ダヌキを片腕ですくい上げると、また頭をなでた。
すすりあげる子ダヌキの頭が、こてん、と鬼の肩にのって、眠ってしまう。
「 ―― これでおまえの『呪い』もとけた。たいしたこともない呪いだから、はがしてやろうとおもうたのだがな、無理にはがすと面倒なことになるとジョウカイがいうので、やめておいたわ。 しかし、まさかおれの眉毛をとってこさせるとは」
「 いや!ちがう!鬼の眉毛だなんて、」
「知らなかったですむはなしだとおもうなよ。 ユズスケがここにおるんで、ジョウカイの名でよばれても、こうして《でてきて》やったが、おまえ、おれの名をさけばなくてよかったな。 ―― ほんとうに鬼に『呪い』をかけると、どうなるか知っておるか?」
「 しらんしらん! ちがう、てっきり坊主の眉毛をもってくるンかと、」
「それでジョウカイをよぶのか?まあ、あいつもユズスケの気がすんだらどうにかしようとはいうておったが・・・。 まあ、あれよ、おれはジョウカイとちがって、てめえみてエなもんを、どうにかおさめるとか、そういうことをしてるわけでもねえし、まあ、ジョウカイにいわれたら、手伝うくらいだな。しかたがねえから。 ―― だから、おまえをおさめるとか、退治するとかは、おれのすることじゃねえんだ、 ―― がよ、 」
鬼がいつのまにか、おのれのおおきなからだとおなじ高さほどもある金棒を片手につかんでいた。
片腕に抱いた眠っているの子ダヌキに顔を近づけ、匂いをかいでから、眉間にしわをきざみ、金棒を軽くまわして肩にかつぐ。
「 ずいぶんと こわがらせて泣かせたな 」
にやり、とひらいたくちには、とがった歯がならんでいた。
それが、《ニヘエ》が『おわる』まえにみた、さいごのものだった。




