いつから
『 ―― いままでも情けをかけおったんではないわ。ヨツ沼で漁をして、よけいにとれた魚をもどさんと、《沼の神様》にとりつかれるんじゃ 』
沼で古くから漁をするものたちが、みな馬鹿正直に魚をもどすのは、《沼の神様》が魚をかぞえていて、よけいにとった魚が百をこえると『かえせ』といってとりつくのを知っていたからだった。
『 そこからは、とれた魚もひもをひかれたように、《アシ沼》へさらわれたわ。食える魚もなくなったがなア、とりつかれておるせいか、腹がへらなくなりよった。そのうち喉もかわかんようになって、小屋のなかが『アシ沼』みてえに臭くなってな。からだもうごかんようになった。こりゃあ、こまったとおもうておったらなあ ―― 』
じじいはここでまた、にたり、とわらった。
『 ―― あんたがようやっとあらわれて、『わしの代わりに』、魚をとってくれるゆうたわなア 』
このボロ家で漁をすればええじゃろオ。
―― わしの代わりに魚をとってよオ
ちがう!
さけぼうとして、ここは水の中だとおもいだしたのといっしょに、息ができなかったのもおもいだし、とつぜん苦しくなる。
上をめざして水をかいたつもりなのに、水が重たくて腕もうごかない。
昆布のような蛙がゆれて、じじいの顔がついた背中がすぐそこに寄ってくる。
『 よおやっと、 わしの番 が終わったわ。 つぎは、 あんたが 代わって、《ニヘエ》になる番じゃ 』
番?代わりってなんじゃ?
ニヘエはわしじゃ
わしは、 ニヘエ・・ いや、 おれは・・・・、
おれは、いつからニヘエになった?
『 わしの 代わり をうけてくれたときから、あんたは《ニヘエ》じゃ。わしもこのヨツ沼で、前のニヘエから《代わり》をたのまれて、気づいたら《ニヘエ》になっておった。 あんたも動けんようになったら、つぎの《ニヘエ》にかわってもらえばええ。そしたらここへ、あんたもはいれる 』
じじいがいうと、背についたほかの顔もいっせいにめをあけた。
ニヘエじゃ ニヘエじゃ ニヘエか
ニヘエじゃ ニヘエじゃのオ
気味の悪い顔たちの声がかさなり、
気が遠のいてゆく《ニヘエ》を、わらっているかのようだった。




