ニヘエじゃ ニヘエじゃ
「 『 魚はなア、ひとつの沼で四匹までじゃ 』 」
また蛙がとしよりの声でいったかとおもうと、おおきくあけた口からなにか丸いものが投げ出され、《ニヘエ》はあわててよけた。
だがそれは、蛙のくちからのびた舌で、ビクに当たるとその舌にくっついたようにもちあがり、さらわれそうになる。
「おおいのは二匹だけじゃ!かえせ!」
《ニヘエ》は籠にとびついた。たった二匹を置かなかったからといって、十六匹をとられるなどゆるせない。
必死にとびついた籠をもぎとったとき、蛙のくちからのびたながい舌のさきにある もの と、『目』があった。
「 ひっ 」
たおれこんで見上げた蛙の丸い舌のさきには、小屋にいたあの年寄りの 顔 がついていた。
いや、ただしくは、あれよりは若いときのじじいだろう。なにしろ、魚のはいったビク籠をもちあげたのは、その顔にあるくちの、はえそろっている歯で噛んでもちあげたからだ。
「 『 おいていけ と ゆうたじゃろ 』 」
口にのこっていた籠のきれはしを噛みながら、舌のできもののような年寄の顔が、《ニヘエ》をみろして言った。
「わわわ、わかった、おく、おいてく、魚はおくから、くわんでくれ!」
おそろしさでこしがぬけたまま、あたりにちらばった魚を、はいずるようにしてあつめた。
あつめた十八匹の魚をみたとしよりが、満足そうにわらい、それをつぎつぎ吸い込むようにくちへといれる。
「 《 おうおう これで ようやくわしも沼へはいれるわ 》 」
おうおう これで ようやく おまえも 沼へはいれるのオ
魚をすべてすいこんだ年寄りの声にこたえたのは、沼の中からの大勢の声だった。
蛙の舌はじじいのわらいごえをのこして蛙のくちのなかへともどっていった。
ゆっくりとした動きで蛙が背をむけはじめた。
その背には、まるでイボのように、人の顔がぼつぼつとつき、気味の悪いわらいをうかべ、くちぐちに《ニヘエ》の名をつぶたいた。
ニヘエじゃ ニヘエじゃ ニヘエか
ニヘエじゃ ニヘエじゃのオ
「 わ ああああっつ 」
腰がぬけていたのにそれをみたとたん、駆けて逃げ出すことができた。
おさえたふところに匕首がないことに気づき、投げ捨てたことをおもいだす。
とにかくこのしめったところから逃げることが先だった。
月だけをたよりに、ニヘエは走った。




