引きこまれる
ぼ っぢょ
またしても水音がしたが、こんどは魚のひれはみえなかった。
ただ月のあかりをうつした水面だけ、なにかがゆらしたのを知らせるように、ゆれている。
「 わしの名は 《ニヘエ》じゃ 」
ほかの沼とおなじように、言ってから網を投げ入れた。
ほかの沼とおなじいように、みずしぶきをあげながら沈んでゆくだろうとおもった網が、ぼぢゅっ、とちいさなしぶきだけで、なにかにひきこまれるように、あっというまにみえなくなった。
「 なっ、なんじゃ 」
手にした縄が、グン、とひかれ、ニヘエのからだも草をわけて沼へとひかれる。
あわててはなすと縄は小さな音をたてて、沼へ吸われるようあっというまに消えた。
淵から沼にかけてはえる草のせいでわからなかったが、ニヘエの足は、あとすこしで沼へ落ちるところにあった。これが『底なし沼』とはおもえないが、あの網をひきこむほどの大きな魚がいるのかと思うと、落ちずにすんでなによりだった。
しばらく沼を見ていたが、ひき縄はうかんでこない。




