五つめの沼へ
その神様とやらは、真ん中の沼にいるらしい。
その沼へ魚をおいてこいと言っていた。
『沼の神様』がいるというなら、よほど『良い』ところなのだろう。それを『アシ沼』などとよぶのはきっと、その沼がよい漁場だと知っていた親方が、ほかの漁師を寄らせないためにでもつけたのだろう。底なしといっておけば、近寄る者もいない。
とった魚の数など、あの動けそうもない年寄りにわかるわけもない。売りにゆけとは言ってみたが、この魚は《ニヘエ》が売りにゆかねばならぬだろう。
この沼に着くまえにけもの道をたどり通ってきた山からは、大きな川がみえ、橋をわたる旅装束の者と、籠をせおった商売人たちもみえた。きっと、ちかくに宿場か大きな集落があるはずだ。この顔をみられるのはいやだが、ほっかむりをして顔に泥をつければ、きたない漁師の顔などだれものぞかないだろう。
金があれば、酒も買えるかもしれんな
月がいつのまにかまた、空にある。
底がまたぬけないように、ビクの籠をかかえなおした《ニヘエ》は、五つ目の『アシ沼』へゆくことにした。




