ひとつの沼で四匹まで
なんだかばかにされたように感じた《ニヘエ》は懐から引き抜いた刃物をみせ、年寄りのそばへ寄り、「ほんとに動けねえんだろうな?」と刃先をむけた。
「 わしを殺してもなんの得もねえじゃろが。それより、沼の魚のとりかたを教えてやるけエ、金がたまるまで、このボロ家で漁をすればええじゃろオ。 ―― わしの代わりに魚をとってよオ」
刃先をつきつけられても怖がるどころかやはりばかにしたように笑い続ける年寄が、からだにまきつく網を節くれだった指でつまみあげてみせる。
たしかに、魚のとりかたは殺す前におしえてもらったほうがよさそうだとおもった《ニヘエ》は、刃物をしまった。
「なら、そうしておくか」
《ニヘエ》のこたえに年寄りはうれしそうになんどもうなずき、「ほいじゃあよオ、」と家の壁にかけてある、べつの網を目でしめした。
「 その網をつこうてくれ。あんた、網打ちできるかのオ?」
「はあ?魚なんぞとったこたアないわ」
「 まあエエわ。その網をな、むこうにあるヨツ沼に持って行って、あんたの名をいうてから、投げ入れるんじゃ。 網はまあ、ひらかんじゃろが、魚はかってにはいってきよる」
「かってに?そんなわけあるめえ」
「 まあ、ええから、なげいれてみい。 ―― よくきけよ。魚はなア、ひとつの沼で四匹までじゃ」
「たったの四匹か?もっと捕れそうなこといいよったぞ」
「 もっと捕れても、持って帰っていいのは、ひとつの沼で四匹じゃ。 いいか、沼は五つあってな、そのうちの四つの沼で四匹ずつとっていいんじゃが、まんなかにありよる五つ目の沼は『アシ沼』っちゅうてな、よくねエ沼なんじゃ」
「『悪し沼』ってことか?その沼をいれねエで、ヨツ沼か」
「 そうよ。数にもはいれねエ沼じゃからの。 『アシ沼』だけ水もよどんで草がボウボウでな。底なし沼じゃいうモンもおるわ。そこだけ魚はとれん。 ぜったい網をなげいれるなよ。沈んで戻ってこなくなるからのオ」
そういいながら網のなかのからだをゆらしてわらう年寄は。魚をかぞえまちがえるなよ、と《ニヘエ》をゆびさした。




