沼の漁
「 雨エ? ああ、水気があるからのオ。これはア、沼の水じゃ」
「『ぬま』?」
「 こっからすこし奥にいくとな、『ヨツ沼』っちゅう沼があってなア。わしはそこで漁をしてくらしとるんじゃ」
「漁?そんなにとれるのか?」
売るほどに?
「 おお、とれるとれる。 だがのお、わしはこの沼にあとから来たんで、取り分は魚の骨ほどじゃ。 沼は四つあってな、どの沼にも魚がたくさんおるが、ひとつの沼でとっていいっちゅう数が決まっておってのオ。みなでかぞえて、おおすぎるのは、置いてかえらんとならん」
「なんだ?漁師がほかにもおるのか」
「 沼のひとつひとつにむかしからの漁師がおるんじゃ。わしがはじめてここにきた時にはそのみんなをまとめる親方もおったが、もうとっくに死んじまってなア。そしたら、漁をするモンも、みイんなどこかへいきよって、のこったのはわしだけじゃ」
「魚がとれなくなったのか?」
「 いんやア、魚はおるけどなア」
「なんだ、いるならとればいいだろがア」
「 ―― そうじゃなあ、わしがよオうごけたら、とって売りにゆくがのオ」
「ああ、動けねえのか」
それで家のすみに、網にからまり縮こまっているのだろうか。
「 ―― あんた、わしのかわりに魚をとりにいってくれンかのオ 」
「おれに捕れだと?じいさん、それを売るつもりか?」
「 売るのもあんたが売りにいかんとなア、わしは動けんでのオ」
網におさまる年寄りは、黄色い歯がすこしのこっているくちをよこにひらいてわらってみせた。




