かたむいた小屋
その傾いた小屋はとても人がすんでいるとはおもえなかった。
もう何日もろくにねむらないままあるきつづけて来た《ニヘエ》は、その小屋をみつけ、あたりにはほかに小屋がないのをみてとると、ここならしばらくとどまって休めそうだと、はずれそうな戸をひいて真っ暗な小屋の中にはいった。
とたんに、なまぐさいにおいが鼻をつき、あしもとの莚が、わらじでふんでも、ぐじゅり、と水をふくんでいるのが知れた。
「 ―― だアれやア?こげな家に押しこみかア?」
「わあ!なんだ、じじいがすんでやがんのか?」
声におどろき目をこらせば、隅にぐしゃりとかたまってある網にからまるように、膝をたてて座り込んでいる年老いた男がいた。はずれた屋根のあいだからさした月明かりに、その目だけがひかっているようだった。
「 金も、飯も、なにもないわア」
「みりゃわかる。じいさんひとりモンか?しばらくじゃまするからよ」
「 布団もないわ」
「あってもこれじゃア敷けねえだろ。なんだ、雨がふったのか?」
水をふくんだ莚がある土間しかない家だ。
月明かりが差し込んでくる穴のあいた屋根をみあげたが、ここに着くまでの何日かは雨に降られたことはない。だが、このあたりだけ夕立があったのかもしれないと思った。




