眉毛は寺のものではない
そうしてどうにもできないままで、男のところへ通い続け、社の中へこれで五匹目となる亀を投げ入れた八日目に、帰ろうとしたところをよびとめられた。
「さあ、コダヌキ、これでようやく腹もふくれたわ。あとはおまえが寺から毛をもってくれば、わしもようやく助かるわ。楽しみじゃなア」
『ニヘエ』は歯のないくちを上や下へ動かしながらおおわらいする。顔のはしにおいやられた丸い目玉がじっとユズスケをみつめ、なにも言えないユズスケは、その目玉からのがれるように顔をそむけて走り出した。
どうしようどうしよう
あすの夜には、眉毛をもっていかなければならない。
眉毛ではなく、また亀をもっていったらゆるしてもらえるだろうか?
でも、そうしたらまた、このくちが勝手に『わかった、たすける』と、約束をおもいださせるようにユズスケのことばをだすのだろうか。
どうしようどうしよう
だれかをたすけるというのは、こんなにも、こわくてこころぼそいことになるものか?
オチョウとおなじように、こまっているものをたすけようとおもっただけなのに・・・。
夕陽に照らされ、石のうえにならべてある眉毛をみつめ、ユズスケはあたりをみまわした。
これは、寺のものではない。だからきっと、もちだしても平気だ。
だけど、あの男はどうして寺の石や、ジョウカイに『近いもの』にこだわるのだろう?そのくせ、坊主はけっしてつれてくるな、などとさけんだ。
あのからだにまきつく網をとってやればニヘエは助かるのかとおもっていたが、ユズスケは足が震えてニヘエにちかよれない。だが、ニヘエが言うには、先にからだを動かせるようになれれば、網などすぐにとれると言う。
からだはいま弱っていてどこも動かせないが、ユズスケが寺からもってきてくれる眉毛には、『ショウカイさまのありがたい力』がやどっているから、それをわたされれば、すぐに動けるようになるという。
それをはなすときのニヘエは、涙とよだれをいっしょにたらしていた。
眉毛をわたしたら、『ニヘエ』は、眉の毛を、やはり喰うのだろうか?
ユズスケは石のうえにあるみじかい眉毛を一本とり、オチョウがいつももってきてくれる手習いの紙にそれをはさんで、懐へそっとしまった。




