くちをふさぐ
はじめに抜け出したつぎの朝、ウゴウやサゲンにいつもどおり掃除をいいつけられても、寺にきたオチョウにばかにされながら墨で書いた字をなおされても、夜中にユズスケがぬけだしたことに気づいてないなんて、なんてまぬけで、ぬけだしたおれは、なんてすばしこくてかしこいんだ、なんてひとりでわらっていた。
でも、・・・ちがうんだ・・・
寺からは勝手に出たらいけなかった。
それをやぶったのに、ユズスケはみんなに黙ってる。
それは、悪いことだ。
なのに、ウゴウもサゲンも、ユズスケがきょうはチリひとつのこさず庭をはいたとほめ、本堂の床を鏡ほどにもみがきあげたとほめてくれる。オチョウが、ユズスケは書はだめだけど、画はうまいねえ、と手習いの紙のすみにかいたアサガオをほめ、ジョウカイにみせようと破りとっている。
もう、言ってしまいたかった。
あんな、ヒトかどうかもあやしい男を、ほんとうにたすけてもいいものか、オチョウにききたかった。
そんなふうに迷いながら、せめてあの、川下にある『沼地』のことを知っているかどうかきこうと、くちをひらいたとたん。
「 《わかった、たすける》 」
ユズスケのくちが、かってにそう言った。
あのとき、『わしをたすけるか?』ときかれ、たしかにユズスケはそうこたえてしまった。
オチョウに、なにかいったか、とききかえされたユズスケは、くちを両手でおさえて首をふり、庭のすみへとと走って泣くしかなかった。




