人魚との遭遇
第2話:十年後の手紙
都会の喧騒から離れ、少女――いや、もう大人になった彼女の元に、一通の手紙が届いた。
封筒には丁寧な文字でこう書かれている。
「元気ですか、幸せに過ごせていますか。私のことは忘れてください。君には誰か良い人がいるから。でも……それでもずっと好きでした。愛しています。覚えていますか、出会った時のことを?」
少女は手紙を握りしめ、胸が締め付けられるように震えた。
十年前、あの孤島で共に過ごした少年――彼の存在を、彼女はずっと心の奥にしまい込んでいたのだ。
「……忘れられるわけない……!」
涙が止まらない。十年もの間、彼のいない世界で生きることの虚しさが、今、一気に押し寄せてきた。
その手紙を受け取った少女は、どんな依頼でも解決してくれるという学校に向かった。
そしてその依頼を受けたのはアレンだった。
アレンは冷静な表情で手紙を受け取り、文字を追う。
「……これは……十年前の島の少年……?」
「そう……でも、もう十年も経っている。あの人はどうなっているのか、わからない。でも……会わなきゃ。絶対に、真実を確かめたいの」
アレンは静かに頷いた。任務として依頼を受けている以上、感情は交えられない。しかし、少女の決意の強さを前に、背中を押すしかなかった。
「わかった。一緒に行く。ただし、危険な場所だ。万が一のことも考え、覚悟はしておいてくれ」
少女は小さく口を尖らせる。
「危ないからって来ないでって言ったでしょ?でも……私は自分の目で見なきゃ信じられないの。あの人は、私の大事な人なんだから」
アレンはその言葉を黙って受け止めると、二人は島へ向かう船に乗った。海は穏やかで、水平線には朝日の光が反射してきらめく。
少女の胸は期待と不安でいっぱいだ。十年前の記憶と現実が交錯し、心が高鳴る。
島に到着すると、懐かしい砂浜と崖、波打ち際が広がっていた。人影はない。あの少年の姿も、痕跡すらもない。ただ静かに波の音だけが二人を迎える。
「……やっぱり、誰もいない……」
少女は小さく呟き、アレンは海を見つめながら計画を思い巡らす。島全体を捜索しつつ、少年の痕跡を辿る必要がある。
すると、海辺の奥から、かすかな光が揺らめく。
薄い霧のような半透明の存在――少年の霊か、それとも何かの幻か。
少女は息を飲み、アレンも慎重にその存在を見守る。
少年は複雑な顔を浮かべながら、ゆっくりと歩き去っていく。二人はその影を追いかける。波打ち際を進み、崖を登り、少年が最後に釣りをしていた場所にたどり着く。
夜の島は、静かだった。
だがその静寂は、どこか張りつめている。波が岩を叩く音すら、警告のように耳に響く。
「……さっき、確かに見たんだ」
アレンは独り言のように呟きながら、灯りを手に森を抜けていく。
夕刻、釣り場の近くで一瞬見えた少年の姿──。
痩せ細った体、だがこちらをじっと見つめる真剣な瞳。次の瞬間には、海へ溶けるように消えた。
あれは、幻ではなかった。アレンの心臓がやけに強く脈打っている。
足元の砂を踏みしめ、崖の上に出る。眼下に広がるのは暗い海。月明かりに照らされて、波が銀色に光っていた。
そのとき──。
「……っ!」
海面が揺れ、影が浮かび上がった。
細い腕、透き通るような髪。海から姿を現したのは、一人の少女……否、人ではなかった。
尾ひれが月光を反射し、鱗が淡く輝く。
「人魚……?」
アレンは息を呑む。
その存在は美しかった。しかし同時に、涙で濡れた頬は痛々しく、彼女の心がいかに苦しみに囚われているかを雄弁に物語っていた。
アレンは警戒の構えをとる。
少女は目に涙を浮かべ、震える声で問いかける。
「あなた……私の大事な人を、どこに連れていったの!」
人魚はうつむき、小さく首を振る。
「……十年前の少年のこと?もう、ここにはいない。ごめんなさい……」
少女の胸が締めつけられる。
「……あなただったの。私の大事な人を……殺したのは!」
人魚は震える声で答えた。
「わ、私は……殺して……なんか……ないよ……」
少女は拳を握りしめ、涙が頬を伝う。
「嘘をつかないで!じゃあ、なんで戻ってこないの……!」
アレンは冷静に人魚に声をかけた。
「……何があったのか、話してもらえないか?任務としても、真実を知る必要がある」
人魚は大きく息を吸い、目に光を宿しながら語り始めた。十年前、母が病気にかかり、魚人の手にかかって少年が捕らえられた経緯、そしてその後の悲劇のすべてを――。
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このストーリーは私が昔から考え続けていた作品であり、誰かに読んでもらいたいという思いで、投稿しました。いつかはこの作品が漫画になったり、アニメ化したり、書籍化したいと思っています。
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