初めての任務
第2章 初任務 ― 巨貝の咆哮
教室に入った瞬間、空気が凍りついた。
見知らぬクラスメイトたちの視線が、一斉に俺へと突き刺さる。
「えっと……アレンです。よろしくお願いします」
なんとか笑顔を作ったものの、次の教師の一言でその笑顔は固まった。
「そして彼には、この学年のリーダーになってもらいまーす!」
――シーン。
耳を疑った。
「は?」「初日でリーダー?」「冗談でしょ」
ざわめきが広がる。怒気と嘲笑が入り交じる空気。
「なんでアイツが……」
「俺たちのことも知らないくせに」
当然だ。記憶を失った俺が、誰かを導けるはずがない。
だが、否定する前に教師はにやりと笑って言った。
「リーダーが嫌なら、この学校で生き残れないと思った方がいいよ」
……結局、俺に選択肢なんてなかった。
「そして初任務、行くメンバーは……アレン、カレン、そして――」
教師の視線が、ひとりの少年に向けられる。
黒髪を乱暴にかき上げ、挑発的な目を向けてくる彼。昨日から一番強く俺に反発していた。
「……俺かよ。ふざけんな。なんで“リーダー”様と一緒に行かなきゃなんねぇんだ」
「お前が適任だ。実力もあるしな」
「チッ……俺ひとりで十分だ。リーダーなんて足手まといは要らねぇ」
言い捨てるように吐き捨て、彼は教室を飛び出していった。
残されたのは俺と、窓際で静かに座っていた少女だけ。
「……行きましょうか、アレン君」
「えっと……君は?」
「カレン。支援が専門。モンスターの分析と仲間のサポートなら任せて」
小さな声だけれど、不思議と安心感のある響きだった。
⸻
湖へと続く道を歩く。
周囲は緑に囲まれているのに、胸の奥がざわざわと落ち着かなかった。
「カレンさんは……その、戦うのは得意じゃないの?」
「直接はね。私の力は“解析”。相手の性質や弱点を見抜いて、味方に伝えるの。剣を振るう人よりは地味だけど」
「いや、すごいよ。それがなかったら、戦いようもないし」
言葉にすると、カレンの頬が少し赤く染まった気がした。
彼女は小さく「ありがとう」とつぶやいた。
⸻
湖畔に着いたとき、村人たちが逃げ惑っていた。
「貝だ! 巨大な貝が暴れてる!」
「誰か助けてくれ!」
視線の先にあったのは、想像を絶する巨大な二枚貝。
ビルほどもある殻を持ち、湖の水を飲み込んでは轟音と共に吐き出している。
「な……でかすぎるだろ……」
「……あれは貝魔。でも、普通はあんなサイズまで成長するはずない」
カレンの声が震えていた。
そして、すでに戦っている人影がひとつ――あの反発していた少年だ。
「やっぱり……先に来てたのか」
彼は大剣を構え、渾身の力で斬りつけていたが、硬い殻はびくともしない。
「くそっ……砕けねぇ!」
俺とカレンも駆けつけるが、攻撃は通らない。
殻は鋼鉄のように硬く、こちらの力はまるで歯が立たなかった。
「お前が指示出せよ、リーダー!」
「くっ……まだ俺、戦い方なんて……!」
焦りで体が重くなる。
俺たちの攻撃は空を切り、ただ圧倒されるだけ。
やがて少年が吐き捨てた。
「こんな何もできない奴がリーダーかよ……。俺は……俺は結局、何もできないまま死ぬのか」
その言葉が、胸を突き刺した。
――無力。
――誰も救えない。
また、あの記憶のない暗闇がよみがえる。
だけど今度は、逃げたくなかった。
「……絶対、守ってやる」
「は?」
少年が顔を向ける。
その瞬間、俺の内から黒い衝動のようなものが溢れ出した。
体が焼ける。視界が赤黒く染まる。
「な、なんだよ……そのオーラ……!」
「アレン君……これ……」
禍々しい力に包まれ、俺は貝魔に駆け出した。
殻を覆う分厚い装甲に拳を叩きつける。
――バキィィィン!
信じられない音と共に、殻がひび割れた。
次の瞬間には剣を突き立て、裂け目へと押し込む。
「ぐぅぅぅぅ……!」
力が暴走するように溢れ出し、貝魔の巨体が揺れた。
やがて、静寂。
俺の意識がふっと途切れ、力が抜ける。
「はぁ……はぁ……なんだこれ……心臓が……焼けるみたいに……」
倒れ込みそうになる俺を、カレンが支えてくれた。
「すごい……すごいよアレン君!」
「お、おい!今のなんだよ!なんでそんな力があるんだ!」
少年が必死に問い詰めてくる。
「……俺も知らない。初めて使ったんだ」
「はぁ!?ふざけんな!」
混乱と怒りが渦巻く中、俺はふと気づく。
――貝の中から、何かが光っている。
「……待って。中に……誰か、いる……?」
巨大な殻の裂け目。そこに確かに、人影のようなものが見えていた。
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