表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

2.

──人生とは、物語だ。

私たちは皆、舞台の上で、与えられた台本をなぞっているにすぎない。


ならば。

この手で、最高に面白い物語を紡ぎ、心惹かれる役柄を演じよう。


冷めた瞳の奥で、アリステラ・シルフィレードは静かにそう決めていた。


**


王立アルティス魔導学園。

王国随一の名門であり、貴族と一部の選ばれた平民しか入学できない学び舎。

その荘厳な門を前にして、彼女──アリア・シュヴァルツは、ふっと小さく笑った。


「……さあ、物語を始めましょうか」


栗色に変えた髪を風に遊ばせ、アリアは静かに歩き出す。

この学園生活は、彼女にとって”新たな舞台”だ。

しかし心の奥底では、どこか醒めた意識があった。


──人生とは物語。

──我々は、与えられた役を演じるだけ。


冷めた合理主義と、仄かな享楽主義。

それが彼女、アリア・シュヴァルツ──本来の名をアリステラ・シルフィレードという少女の、揺るぎない信条だった。


**


校舎の中は、初々しい生徒たちのざわめきで満ちている。

その中、アリアは目立たぬよう、静かに窓際の席に腰を下ろした。


「──失礼、隣いいかしら?」


穏やかな声がして、ひとりの少女が現れた。


肩までのダークブラウンの髪、真面目そうな顔立ち。

制服の着こなしもきちんとしている。


(……この感じ、間違いないわね)


アリアは、少しだけ口角を上げた。


少女はすっと一礼する。


「私はレナ・ハルト。ハルト男爵の娘よ。よろしくね」


「あっアリア・シュヴァルツです。えっと、特待生として入学しました。こちらこそ、よろしくお願いします」


──レナ・ハルト。

本来の名はレーナ。

梟の森に所属するアリステラ直属の部下であり、普段はアリステラの専属メイドをしている。アリステラが最も信頼している部下の1人だ。当然ハルト男爵というのは、アリステラの息がかかった存在だ。


偽りの身分は決して高くはない。けれど誠実でしっかりした”親友役”。

この学園生活でも、アリアの支えとなる存在だ。


「特待生!噂の特待生の平民ってあなたの事だったのね!」


レナは”とても驚いています”というようなリアクションをした。


「ええっと、わっ私以外に平民がいないのであれば多分?」


互いに小さく笑い合う。

まだ誰にも悟られることのない、主従の絆がそこにあった。


**


それから数日。

アリアは目立たぬよう、”平民にしては優秀”な特待生を演じながら、学園生活を過ごしていた。


座学、魔法の基礎、そして実践。

どれもそつなく、しかし決して抜きん出ることはなく。


一方、周囲では貴族子弟たちの派閥争いが静かに始まりつつあった。

彼らの背後には、家名や政争の匂いが色濃く漂っている。


(──くだらない)


アリアは冷めた目で、それを見ていた。

平民を演じる彼女は、そういった争いの外側にいる。


もっとも、それも今だけの話だろう。

この世界で”無関係”でいられる者など、いないのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ