決断と白級
・・・ブランク・ホワイト・・・
「「「!!!」」」
「ただいま」
「ご無事で何よりです」
「なぜ勇者様だけ一緒に帰されなかったのでしょうか」
「心配いたしました…」
「みんな心配かけて悪かったよ。だけどごめん。今日は一人にしてくれないか。明日ゆっくり全て話すから」
「そうですか」
「わかりました。無理なさらないようお願いします」
「お食事はいかがされますか」
「あぁ、みんなありがとう。食事もいらない。今日は出てくるよ。明日朝ここに集まっていてくれ」
「「「わかりました。」」」
ブランクは困惑していた。考えるべきことが一気にやってきたからである。
一人になるため、森の洞窟に来ていた。
「移住に妊娠、簒奪、魔王にもらった剣と木箱、魔王の転生話…色々ありすぎて訳がわからない!!」
ブランクが落ち着くまで数十分、冷静に考える余地が出てきていた。
「まずは先に解決すべきことかな。移住と妊娠の件を整理しよう」
移住するためには現在の国を捨てていくことになる。ほぼ裏切りと言ってもいい行動になる。
ここ30年は何とか許されてきていたが、アルバイル王国の王様が次の世代に任せる風潮が出てきており、その第一継承権をもつ皇太子は勇者達のことを特に強く疎ましく思っているふしがある。
そのためここまま魔王を倒せないまま王国に居続けると、皇太子が皇位継承したタイミングで追い出されるか、最悪奴隷契約や処刑、今までかかってきた金額を請求される可能性があった。それほど現皇太子は勇者一行に嫌悪を向けている。
理由はごく単純で、皇太子よりチヤホヤされておりモテていたからである。とういう現在は魔王を倒せず、みんなの心の中では無能烙印が付いていることもあり、昔のような状態ではないが皇太子の若い頃の恨みが未だに残っているからである。
そのため魔王からの移住の提案については現状を考えると非常に良い提案であった。
また妊娠しているマリエルが出産した時、子供がひどい目に遭う可能性も高確率で考えられる状況であるため、安全を考えてもあの魔王の付近に住むことは非常に魅力的に感じられていた。
魔王から誰が妊娠していたか聞いたが、実際聞かなくてもおおよその検討は付いていた。
魔法を使って避妊をしていたが、その魔法をうまく誤魔化せるのは銀魔法使いしかないとブランクは気づいていたからだ。
ブランクとしてはしてやられという感情もありつつ、待たせすぎたという懺悔も強く残っている。
魔王の討伐が不可能に近い状態で、もともと皆には魔王を倒すまで子は成さないと話しており、30年も経ってしまっては彼女たちが可哀想とも言える。
「魔国に移住か…。勇者が魔王の擁護下で住んでいるとは非難の的でしかないな。それに皇太子が喜んで政治に利用するだろう」
ここで悩んでいても仕方ないと決心をつけ、方向性を決めたのであった。
ここへ来た時は日が高かったがすでに沈みかけている。それほど人間界で過ごした縛りや考え方が根に付いていた。
「次は剣と木箱を見てみよう」
決心がついたブランクが次に行ったことは魔王にもらった物の確認である。
収納魔法にしまう為少し触れた程度であったか圧倒的な圧を、その少しで感じていた。
「錆びた剣は白魔法に反応するかもと言っていたよな。魔力を流してみよう」
錆びた剣に魔力を通すと剣が光りだし、錆が取れ輝かしい剣が姿を現した。
この剣は数少ない白魔法にの中でも純白に選ばれた者のみが扱い、本来の力を引き出すことが可能になっていた。
ちなみにこの純白は白の中でも最も偏りがなく、白の中でも唯一別名が与えられており、別名エフとも呼ばれている。白って200色あるみたいなので。
この剣の銘は聖剣アマテラス。聖に関する頂点の武器である。圧倒的な聖による力で闇を照らし天へと昇る光を出すことが特徴である。
この武器は魔国の宝物庫に書物として聖剣の伝説が記載されている。
今までブランクはブラックに刃が通らず、今でこそ修行のような形になっているが、この武器はブラックの天敵であり刃が届きうる武器になっている。
「これは…!!僕しか扱えないことが剣を持つとはっきり感じる!それにこれは魔王に傷をつけることができうるものだ!!」
ブランクは興奮しつつも、木箱のを取り出し中を確認してみた。
その中には真っ白の魔導書が2つ入っていた。
1冊は黒魔法に対抗するための魔法シリーズが記載されているものであった。実際白を持つものであれば魔法の発動は可能だが、純白以外の者が魔王を止めるためには100人ほど同時に魔法を使用してようやく少し足止めできるといった強力な魔法になっている。
もう1冊はバフや回復など味方に作用する魔法シリーズが記載されているものである。
どれも黒級、この場合は白級とも言える最上級以上の魔法が記載されている。
「これもすごい!!!が、扱うには時間がかかるな」
これらはブランクであれば全て扱うことは可能だが習得までに時間がかかってしまう。
使いこなすにはブランク自身が一つ上のレベルに上がらなければいけないので、魔王の言っていた唯一の問題、弱点は寿命であること、これはこの魔導書を見てからこそより強くブランクも感じることになった。
「さて、試し斬りや試し打ちはここではできないので、次に簒奪と転生について考えるか」
武器と魔導書で完全に落ち着きを取り戻した勇者は、新しい力を試してみたい心を抑えて思考を回すことにした。
街の近くで試し斬りでもしようものなら、斬撃が街の門まで到達し破壊することになっていた。
「この2つは今すぐに考えなくてもいいものと結論つけよう!流石にすぐに答えは出ないものだから。」
整理がついた勇者は日が昇るまで洞窟で仮眠をとることにし、宿へ帰ることにした。
「みんなおはよう」
「「「おはようございます」」」
「昨日は心配かけて悪かった。今は落ち着いているし冷静だから安心してほしい」
「大丈夫そうで安心しました」
「昨日のお話しを聞かせてもらえますか」
「あぁそうだな。整理できたから1つずつ話していくよ。まず聞きたいがみんなは今の現状をどう考えている?」
「どうとは…?」
「このままだと追い出されてしまう可能性があると考えています。皇太子が皇位継承すると私たちをよく思っていない人たちが自由に処遇を決めてしまうからです」
「その通りだ。現状はかなり厳しい状況である。そこで昨日だが魔王から魔国に移住しないかと提案があった。仲間も含めて全員でだ」
「なっ!?」
「そのようなことできるはずがありません!倒すべき相手のところに住処を移すなどよくありません!」
「まぁ落ち着いてくれ。昨日僕が取り乱してしまった理由が少しはわかったかな?」
「…はい」
「それにしても移住に関しては検討の余地はありそうね。魔王が言うからには魔国でも悪い待遇ではなさそうと思えるもの」
「マリエルはそう思うか?この話しをはっきり言ってしまうと、魔王の支配する魔国で魔王を討とうとしている勇者が魔王の擁護下に入って住むといった体裁になるな」
「…」
「なかなかえげつない状況ですね」
「歴史書に書かれた際はかなりひどい方で有名になりそうですね」
「はは。それで僕はこの話しに乗ろうと思っている。昨日考えたがこれが今の僕たちが持てる最良の未来と思えるから」
「勇者様それは正気ですか!?」
「あぁもちろん。それに魔王が送り帰す時の違和感を教えてくれてな、それが誰か妊娠しているとのことだ」
「「どういうことですか!?」」
「…」
「みんなも待たせて悪いと思っているが、マリエル、せめて一言相談でもしてくれてもよかったんじゃないか?」
「…もう魔王は倒せないと思ったし、倒してからじゃ遅すぎると思ったのよ!それにシルバー家からも敬遠されていて、私の居場所がもうここにしかないのよ!」
「マリエルさん…」
「マリエル、僕こそこんな不甲斐ない状況を作ってしまって申し訳なかった。その子のためにも魔国に行って育てていこう。この王国じゃ僕たちの子供は必ずトラブルに遭うし最悪殺されてしまうかもしれない。僕たちは知っているじゃないか、魔王は悪いやつではないし他の人間たちを殺しているわけでもないから、この国から出ていこうよ。バミアン、アトリエ2人とも遅くなったけど戦いから身を引いて次の人生を歩まないか?」
「ゆ、勇者様…」
「でも魔国よ!?そんなすぐに切り替えられないよ…」
「そこは時間をかけて僕が安心させるから。次の戦いでここを出ようと思う。
この調子じゃ今簒奪の話しを出すと気絶してしまうかもしれないな。また機を見て相談するか」
「次はいついくの?色々挨拶とかしなきゃいけないでしょ」
「それについてだが、一切できない。やらないでほしい。この国では死んでしまったことにした方が早いから。そのための偽装もしっかりしてから最低限の荷物を持って、次魔王に挑む形で移住しよう」
「…わかったわ」
「みんなまだ整理できていないかもしれないから、今日は一旦解散しよう。3日後にまたここに集合して話そう」
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