第九話
王宮所属の護衛騎士、カリアス・テオバルト二十歳は、婿入りを控えて周りを戸惑わせていた。
黒の短髪に茶色の瞳をした精悍なその男は、身長は二メートルを超え、褐色の肌の下に分厚い筋肉を携えている。
伯爵家の三男として生まれ、継承すべき爵位や領地のない男は、立派なゴリマッチョに育った。
そして王宮護衛騎士団、期待の星となり現在に至る。
彼は漢だ。
とても頼りになる。
婚約式の後も決められたスケジュール通り鍛錬をこなし、担当業務にも抜かりはない。
以前と同じ様子のカリアスを見て、周りの者たちは戸惑った。
突然決まった婚約と婿入りなのだから動揺したって当然だと、周りの者は思ったからだ。
なのにカリアスは、上司も、同僚も、家族すらも戸惑うほどの平常心を保っている。
本当に事態を理解しているのか?
周囲の者たちは戸惑いと不安を抱えていた。
しかしカリアスは、それらを丸っと無視して、婿入りの準備を淡々と進めている。
周りの者からしたら、ちょっと遠征に行ってきます、くらいの気楽さにめまいを覚えるほどだったが、当人に感情の乱れはない。
「突然決まった婚約なのに、随分と余裕だな」
同僚が軽い口調で言うと、カリアスは体に比べると随分小さく見える顔をコテンと横に倒し、キョトンとした顔で言う。
「婚約っていっても相手は公爵家のご令嬢だし……まぁあれだ。一番近いところでご令嬢を守るのが、オレの仕事ってことだろ?」
「違うからっ!」
同僚は思わず大声で否定したが、カリアスは端正な顔にキョトンとした表情を浮かべている。
周りの者は彼のことを、とても心配していた。
カリアスは逞しく、力強く、とても勇ましい。
しかし、色恋沙汰にはとんと疎い武骨者。
結婚と戦場は似て非なるものなのだが、どこまで理解しているのか。
そもそも戦場に出たこともないカリアスに、戦場に例えられる結婚生活が耐えられるのか。
恋愛ってなにそれ美味しいの? と言い出しかねない人物。
それがカリアスなのだ。
彼はとっても漢なのである。