第二十二話 アイーダは心配すると見せかけてカリアスを側に置きたい
「ねぇ、カリアスさまは、上手くやっているかしら?」
「大丈夫でございますよ、お嬢さま。護衛騎士団長に話を聞いてみましたが、上手くやられているそうです」
カリアスがロドリゲス公爵邸にやってきて数日。
護衛騎士団に所属するカリアスとアイーダが会ったのは、見学に出向いた日だけだ。
アイーダは自室でお茶を飲みながら、執事のエドワルドにカリアスの様子を聞いた。
「カリアスさまが、困っていないのならよいけれど。私よりも、エドワルドの方が、カリアスさまと気軽に会える状況にムカつくわ」
「それは仕方ありませんよ、お嬢さま。お嬢さまには、お仕事もありますし」
「そうね」
アイーダは父であるサイモンから仕事を引き継ぐべく、鋭意勉強中なのだ。
まずは済ませるべき仕事を済ませる必要がある。
ちょろちょろ護衛騎士団の鍛錬場へ行こうものなら、何を言われるか分からない。
「お父さまは罰として、笑顔で仕事量を増やすタイプだから、怒らせたくない。でもサイモンさまにも会いたいわ」
アイーダは、溜息を吐いた。
サイモンは明るく優しいタイプに見えて、厳しいところは厳しいのだ。
公爵家を継いで健全に運営していくには、覚えることが山ほどある。
その責任の重さはアイーダも自覚しているし、父の性格も把握しているから、変に刺激したくはない。
「私が手を抜いたりしたら、罰としてカリアスさまを、視察旅行の護衛に連れて行きかねない人だもの」
「そうでございますね、お嬢さま。旦那さまは、わりと容赦ないですから」
公爵家の領地は、あちらこちらに散らばっている。
その上、広い。
下手に連れていかれたら、カリアスと次にいつ会えるか分かったものではない。
今は大人しく、跡継ぎとして仕事を覚えるのが一番だ。
「カリアスさまが護衛騎士団へ馴染めずに困っていれば……護衛の仕事なんてさせずに、私と一緒に領地経営について学んでもらうのに」
「そうでございますね、お嬢さま。実際は全く困っておらず、のびのびとしていらっしゃるようですが」
「それはそれでモヤるわぁ~」
アイーダがカリアスのことを心配しているのは本当だ。
それよりも、カリアスを側に置きたいという気持ちが上回っているだけで。
(下心のほうが断然デカいわ)
恋する乙女は複雑なのである。
「さぁさ、お嬢さま。そろそろ休憩は終わりにしませんと、今日のノルマが終わりませんよ」
「そうね」
まだ昼食前の時間帯ではあるものの、任された仕事量が半端ない。
ゆっくり進めていたら、夕食後にも仕事をしなければならなくなる。
筋トレはもちろん、美容にも力を入れたいアイーダとしては、それは避けたい。
「いっそのこと、私のほうがSOSを出して、カリアスさまの助けを借りようかしら?」
「それはもう少し、カリアスさまのことを知ってからになさったほうがよいのではないでしょうか。書類仕事が苦手なタイプでしたら、それこそ逃げられてしまいますよ」
笑顔のエドワルドに促され、アイーダは渋々と書類仕事に戻ったのだった。




