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2 エミリア、飴玉使う

「エミリア。退屈だよね。本でも読む?面白いかちょっとわからないけど」


 朝食を食べて、トビーは薬草を煎じ始める。

 それをエミリアは少し離れたところで見ていた。


「ううん。退屈じゃないよ。エミリア、叔父さん見てるの好きだから」

「そ、そう?じゃあ、いいけど」


 じっと見つめられ、トビーは少し緊張しながら、再びごりごりとすりこぎで薬草を潰し始める。


「トビー。ごめん。遅くなった」

「ああ、大丈夫だよ」

「あれ?この子、エミリアちゃんだっけ」

「うん。兄さんの子だよ」


 トビーは随分親しげに入ってきた女性と話をしていた。

 エミリアの視線に気がつき、トビーが慌てて彼女を紹介する。


「この人は、ルーシー。僕のお手伝いなんだ」

「お手伝い。お手伝いって結婚する人?」

「ち、違うよ。何を言って」

「違うよ。エミリアちゃん。私はこんな軟弱者には興味がないから」


 ルーシーは片手を腰に当て、もう片方の手の人差し指を立ててリズミカルに振る。


「軟弱者ってひどい言い方だな」

「事実そうじゃん。ザカリーさんとは言わなくても、もっと鍛えたほうがいい」

「お、お父さんより、トビー叔父さんの方がかっこいいもん!」

「あらあら、エミリアちゃん。トビー。モテるじゃないか」

「何を言ってるんだよ。ほら、仕事。この薬草、追加で取ってきてくれないかな?」

「今来たばっかりなのに。いいよ。近場に生えてるから。じゃあね、またね。エミリアちゃん」


 籠を受け取り、ルーシーはすぐに店を出て行ったしまった。


「トビー叔父さん。もしかして、ルーシーさんのこと好き?」

「な、何言っているんだよ」

「私のこと、好き?」

「も、もちろんだよ。エミリアのことは好きだよ」


 トビーは父ザカリーがするように、エミリアの頭をぽんぽんと撫でる。

 昼食を食べた後、昼寝をさせると聞いているのか、トビーはエミリアを二階に案内した。彼女用にベッドがあり、トビーはそこで眠るように言う。


「眠くない。私も下でトビー叔父さんの仕事手伝う」

「大丈夫。忙しくないから。エミリアのお仕事はお昼寝。おっきくならないよ」


 (大丈夫だもん。飴玉もってるから、すぐに大きくなれるもん)


 エミリアはそう思ったが、ただ頷いた。


「じゃあ、何かあったら降りてきてね」


 トビーは微笑むと下に降りて行ってしまった。

 エミリアはベッドの上に横になる。するといつの間にか睡魔に誘われ眠りに落ちていた。


「トビー。モテるじゃん。襲っちゃダメだよ」

「ルーシーまで何言ってるんだよ。口を動かす暇があったら、手を動かす」

「はいはい。じゃあさ、エミリアちゃんが大きくなって、結婚してって言ったらどうする?」

「あり得ない。その時は僕はすっかりおっさんだし、さすがに結婚してると思う」

「結婚。当てはあるのか?」

「うるさい。まだまだ先でしょ?」


 トビーはむっとして、その隣でルーシーは意地悪そうに微笑んで、作業を続ける。


(トビー叔父さん、やっぱり、結婚しちゃうんだ。私が大きくなるまで待てない。だったら)


 眠りから覚めたエミリアは階下に降りてきて、そんな二人の会話を盗み聞きしていた。


 ☆


「う…ん?重っ」


 その夜、トビーが寝ていると上から何かにのし掛かられてる気がして、目を覚ました。


「だ、誰だ!」


 のしかかっているのは人で、トビーは払い除ける。

 こてんと床に落ちたのは女性で、しかも服がはだけているというか破けていて、事件にあった後の女性のようだった。


「だ、大丈夫?もしかして誰かに襲われたのか?」


 咄嗟にブランケットを彼女に被せて、聞いてみるが女性は首を横に振るだけだった。


「話せないの?」


 女性は頷く。


(えっとまいった。なんで、うちにいるの?誰かに襲われて逃げ込んできた?だったら、エミリアは大丈夫なのか?)


「ちょっとごめん、待ってて」


 トビーは急いでエミリアの部屋に行く。扉が開けっぱなし。そして千切れた服の残骸があった。


「なんてことだ!僕は!早く探さないと!」


 トビーは頭を抱えたが、すぐに我に返り部屋を飛び出す。すると先ほどの女性が駆け寄ってきて、抱きついてきた。


「ごめん、急いでるから」


 そう言って離れようとするが、無理だった。


「もしかして何か伝えたいことがあるの?」


 女性の必死な様子を見て、トビーは彼女が何かを知っている気がしてそう尋ねる。

 

「こっちへきて」

 

 彼女が頷いたので、彼は部屋に連れて行く。

 紙と羽ペン、インクを用意すると、彼女はぎこちない仕草で文字を書き始めた。

 

 子供のような字で、彼女は綴る。


『私 エミリア まじょの あめだま食べて おっきくなった』


「はあああ?」


 トビーは予想もしてない答えを与えられ、悲鳴に近い声を上げた。

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