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科学魔法学園のニセ王子  作者: 猫隼
Ch1・令嬢たちの初恋と黒の陰謀
9/62

1ー9・全然アリです

「調査する必要がある」 そう言った翌日の夜には、もうレイは、アズエル学園の教師と、在籍生徒全員の情報を調べきっていた。


「エミィもガーディもぼくらと同じだ」

 ふたりとも、その経歴は偽装であった。ただしおそらくは貴族ではない。

 レイのようなケースは、普通ない。

「多分、諜報組織とかのエージェントだと思う。少なくともエミィは」

 それなら、ユイトの事がこれほど早くバレたのも納得がいくわけである。

「そしてそういう事なら多分大丈夫だ。あっちも経歴偽装してるんだし、下手にユイトの事バラしたりしないと思う」


 さらにエミィは、むしろかなり公式なルートを使って経歴を作っていたから、どのような組織にせよ、おそらくミューテア政府公認の真っ当なものであると、レイは推測した。

「むしろ気になるのは、非合法なルートを使ってるっぽいガーディはじめ他の連中だ」

「他の連中って、他にも経歴偽装者が?」

 驚いて、聞いたのはミユ。

「ああ、ぼくも正直驚かされた」

 しかしかなり間違いない事だった。

 ガーディとエミィ以外にも、四年生の女子生徒オリヴィア。一年生の男子ゲオルグと、女子のリンリー。それにユイトたちと同じ二年の女子エマが、経歴に明らかに怪しい部分があった。

「まあガーディの件を考えるに、これもほんとかわからないが、とりあえず特殊技能は、オリヴィアが真似(コピー)。ゲオルグが放射光(レーザー)。リンリーが身体強化(チャージ)だと」

 エマはすでに自己紹介にて、特殊技能は感覚切替(センススイッチ)だと、ユイトたちは聞いている。


 一応調べてみると、感覚切替(センススイッチ)解析(アナライズ)に似た、情報解析能力。

 真似(コピー)は、他人の特殊技能を擬似的に真似る能力。

 放射光(レーザー)は、エネルギー線を射出する能力。

 身体強化(チャージ)は、シンプルに身体能力を強化する能力。


「都会の学校て、そんなにエージェントが潜り込んでるものなの?」

 まずもって尋ねてみるユイト。

「気にした事なかったが、そうだったみたいだな」

 そう言いながら、レイはちょっと楽しそうにする。

「この学校に限った話じゃないかも。レイ」

「わかってる」

 ミユの言葉に、真面目な顔になるレイ。

「どういう事?」

 それがユイトにはまったくわからない。

「最近ちょっとな」とレイ。

「このミューテアの社交界で、不吉な事が連続してるんだ。アズエルは貴族の家系も多い学校だから、何か関係あるかもって事だ」

「もしかしたらですけど、何か陰謀めいた事が水面下で進行しているのかもしれないのです」

「陰謀」


 ユイトにはまるで縁がなかったはずの、複雑そうで、そして恐ろしい話。


「お、おれは大丈夫だからね」

 ハッとして、唐突に言うユイト。

「ほら、地上の出身で、強いから。それにレイくんもミユちゃんも、えっと、友達だと思ってるから」

 レイもミユも一瞬キョトンとするも、すぐに彼が、危険になってきたから帰らされる可能性を恐れたのだと察する。

 そしてふたりとも、真剣さを保てず、軽く笑う。

「ああ、空中世界の文化的にも、ぼくらはもう友達だよ」

「でもだからこそ」

 ミユはレイと、笑みを見せあってから続けた。

「いざという時は、わたしたちの事も気にしないで、本気でやっちゃっていいですから」


ーー


 そしてまた次の日。


「あの、レイ先輩」

 本当に、何かやっぱり騙されてるんじゃないかというほど、想定されていたいくつものシチュエーションのひとつそのまま。登校し、教室に入ろうとした偽物レイのユイトを呼び止めた、見知らぬ後輩女子。

「これは美しいお嬢様だね、放課後デートの誘いかな?」

「はい」


(ちょっ、何か違うんですけど、レイくん)

聞いていた話では、ただ照れ笑いするだけ。

[「オチツイテ」]

 すぐ側のミユから、実に適切な秘密のアドバイス。

「先輩?」

「ああ、いや、自分の魅力がちょっと恐ろしくてね」

 そして、名前は必ず聞けというレイのアドバイスも思い出す。

「ところで名前は? 運命的すぎて聞きそびれる所だった」

「わたしはコレットです。それとこれ」と、ハートマークがあからさまな手紙を渡される。

 そして後輩女子は立ち去った。


[「ソノバデヨンデクダサイ」]

 そう言われたので読んでみると、書かれていたのはレイへの気持ちと、デートしてください、というお願い。待ち合わせ場所と時間を指定して、「待ってますから」の一言。


ーー


 それからとりあえずは、ミユと共に、人気のなさそうな屋上まで来たユイト。

「おれ、で、デートなんてした事ないけど」

「大丈夫ですよ。本物呼び出しますんで」

 実にあっけらかんと言ったミユ。

「いや、そっか、おれじゃないんだ」

 ホッと一息つくが、少しばかり複雑そうでもあるユイト。


「ちょっとがっかりですか?」

 半分からかい混じりな調子のミユ。

「いやでも、おれは彼女の事よく知らないし。それは、正直興味はあるけど。でも多分、恋してるわけでもないし、それなのにデートなんて、遊びみたいで悪くないかな。その、都会じゃこんな考え笑われるのかもしれないけど」

 もはや誰が見ても偽物だとわかるだろうほど、顔を赤くして、うろたえるユイト。

「いえ」

 そして、その片手を両手で包む事で、さらに彼を赤くさせるミユ。

 別に笑ったりしないし、もうからかうような感じすらない。

 というか、彼女はなぜだか感動していた。

「いえ、あなたはそれでいいんです。全然アリですよ。レイなんかよりずっと、ずっと素敵ですよ」

「えっと、あ、ありがとう」と言うべきなのかいまいちよくわからないが、とりあえず言っておくユイト。


 そして屋上を後にしようという時。

「ユイト様」

「何?」

「わたしと、いえ」

 それはまた唐突な申し出だった。

「わたしたちもデートしましょうよ」

「へ?」

「興味はあるのでしょう。確かに聞きました。それにわたしたちはもう互いに知ってるって言えますよ」

「いや、でも」

「決まりです、決定ですよ」

 そして、少なくともユイトにはそれまで見せた事なかった、素敵な笑みをミユは見せてくれた。



──


"身体強化(チャージ)"(コード能力事典・特殊技能5)


 自身の身体能力を向上させる特殊技能。

 コード能力としては、効果に関係なく負担がかなり少ない。

 ただしこの能力は実際には、強化というより、身体の強制コントロールに近いので、物理的に身体に負担がかかる。



"放射光(レーザー)"(コード能力事典・特殊技能8)


 エネルギー線、ビームを射出する特殊技能。

 時間をかけて、エネルギーを溜める事で、ビームの威力は上がるが、負担もその分増える。



"真似(コピー)"(コード能力事典・特殊技能30)


 五感から取り入れた、他人のコア情報を取り込み、擬似再現する特殊技能。

 他人の特殊技能を使えるという、ある意味最も汎用性の高い能力。だが、自身のコアを変化させるのでなく、その領域を拡大する事で、再現を実現するので、体力も精神力もオリジナルよりほぼ倍使う。

 また、コピー自体が数十秒ほどかかるので、案外かなり扱いが難しい。



"感覚切替(センススイッチ)"(コード能力事典・特殊技能41)


 自らの知覚能力を、より意識的に扱えるようになる特殊技能。

 解析能力としては、その速度をあげにくく、かなり扱いづらいが、空間範囲の意識的知覚は、隔絶系能力を使う者すら、捉えられる場合がある。

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