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科学魔法学園のニセ王子  作者: 猫隼
Ch2・幻影都市の道化師
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2ー18・異世界使い

「でもぼくの限界か。考えたこともなかったよ」

 急に真顔になるトマス。

「ここをまるまる壊してもいいけど」

 そして、風を取り込もうとしたユイト。


「なんで?」

 精霊エネルギーではない。痛みがあったり、苦しかったりという事はないから。

 そうじゃなくて、ただ、取り込めなかった。


「きみはぼくがここに呼んだ。それなのにぼくがきみに直接何もしないのは、それが出来ないからと考えたからだね」

「わざと?」

「そうだよ。言ったろ、きみを呼んだのは、きみの力を確かめたかったからだ」


 それで力は十分に確かめられたから、もう遠慮なく、ユイトに影響を及ぼしている。

 だが能力を封じられたわけではない。ただ取り込めないだけ


(くっ)

 岩石をひとつトマスにまた飛ばしてやるも、やはりすり抜ける。

「焦ってるね。 三人の中で、きみを最初に呼んだのは正解だったよ」

「おれが一番弱そうだから?」

「単に相性の問題だよ。きみの能力はぼくとの相性最悪だ」


 確かに相性は最悪。

 物質はもう取り込めない。

 今、取り込んでいるのは土。


 転移具をぎゅっと握りしめるユイト。

 宇宙道化師(コズミッククラウン)、トマス。彼はどうにかして、ユイトの物質取り込みを無効にしている。

(考えられるとしたら、コアの性質を変えて?)


「何のマネだい?」

 転移具を消したユイトに、さすがに相当驚いた様子のトマス。 

再創造(リクリエイション)の事を知ってるなら」

 そして、知りすぎていないならば、

「理解してるはず。他の物質を取り込めない以上、おれはもう無防備だ」


 再創造(リクリエイション)は、転移具を消した時点で、 消す前に取り込んでいた物質はもう使えない。転移具を新たに出したとしても、また能力を使うには、別の物質を取り込むしかない。だが今の状況はそれができない。

 つまり、ユイトはもう基本技能以外の能力を使えないも同然。

 そして、その事をトマスも知っていた。だからこそ彼も本気で驚いたのだ。


「どうしたの? 特殊技能なしのおれでも怖い? アイちゃんと比べたらずいぶん臆病だね」

 挑発するような言葉を続けながら、ユイトは左手に意識を集中させる。

 しかし、転移具を実体化はしない。実体化する寸前で、自らの意思でそれを止める。まさに、極限の集中力を使う、かなりの荒業。


(こいつは、気づいたんだ)

 トマスはそうだと考える。

 今まさにそうしているように、干渉できないようにしている物質では、逆に攻撃をすることもできない。だから何で攻撃するにしても、その瞬間は干渉を許してしまう事。

「基本技能だけでどうするつもりか知らないけど、ぼくが仕掛ける瞬間を狙ってるんだろう?」

 それは確実だった。

「さあ、きみも試してみたら?」

「どうしようかな」

 ふざけて言ってるわけでなく、トマスは本気で悩む。


 まだ気づいた事もあるのだろう。

 おそらく、彼を殺せるほどの攻撃をするには、実際にトマス自身も、ちゃんと実体を現さないといけない事。

 そういう特殊技能でもないのに、凄い分析力。最初の攻防を思い返して、そこから気づいたのだろう。

「いいよ」

 ありえない事だ。

 宇宙道化師(コズミッククラウン)という能力について、それ以上気づくなんて絶対に。

 しかしどのみちトマスとしても、自分が次に取るべき手は、彼への攻撃以外にはありえない。

 彼はもう転移具も手放し無防備だ。彼の基本技能の力は知っている。転移具をまた出したとしても、物質に触れてから、その情報を取り込むまでの時間も知っている。

 だから、確実に殺せるはず。反撃を食らう前に。


「お望み通り、きみは本気で、消すんじゃなくて、殺してあげよう」

 そうだと決めた次の瞬間には、彼のすぐ前に、まるで転移能力でも使ったかのように即座に移動する。

 そして周囲の鉄、金銀、プラスチック、とにかくあらゆる物質で、ユイトを撃ち殺しにかかる。

「うっ」

 そこはほぼ予想通り、すぐさま転移具をまた出現させたユイト。

 しかしその色は全く予想外だった。


(かかった)

 ユイトはすぐさま地に手をつけ、 薄い灰色だった転移具を、土を取り込む事で、黄色に変える。そして続けて、周囲一帯の大地全部を破裂させて、実体化したトマスと、トマスの操る物質全てを吹き飛ばしてやった。


「どうして、わかった?」

 ユイトが転移具を一旦消した理由は、これではっきりした。

 しかしなぜ気づけたのかは、やはりわからない。

「なんで、ぼくがおまえのものは操れないとわかった?」

 土の破裂による強烈な一撃で、全身にひどいダメージを負い、もはや立っていられなく、倒れながらもトマスは問う。


 宇宙道化師(コズミッククラウン)は、異世界へ連れてきたもの全てを操れるわけじゃない。

 ごく単純な話だ。

 操れるのは、もともと異世界にあった異世界の物だけ。

 幻影都市とはよく言ったもの。それはおそらく、異世界のものの性質を変えて、外から来た者が一切干渉できなくなった状態。

再創造(リクリエイション)は、 自分のコアを直接いじる能力だよ。だから、それの状態を、自分でかなり把握できる」


(「ぼくがきみに直接何もしないのは、それが出来ないからと考えたからだね」)

 しかしその思わせぶりな台詞は、まさしく思わせぶりなハッタリ。トマスはユイトに、物質を取り込めなくなったのは、ユイト自身へ何らかの影響を与えたためだと思い込ませようとした。

 だが、ユイトはコアに、つまりコード能力に関して、何か影響を受けた場合には、それを把握できる。だからトマスのハッタリに気づけたのだった。 

 トマスがそんなハッタリをかました理由は、彼の能力では、外部のものには影響を与えられないということ。さらに、異世界のものであっても、その全てを一気には操れないからだということも、ユイトは推測できた。だからトマスは、土は完全に諦めて、代わりにその他の物質の性質を、ユイトが干渉できないように変えたのだ。

 そして、土以外の物質を取り込めなくなったのは、あたかもユイト自身の性質を変えたため、かのように思わせようとした。それに感づいたユイトが、まさにそうしたように、彼自身の衣服の素材であるナイロンを使う事を、思いつかせないためである。物質の切り替えさえ行えるなら、十分な量あるのが土だけだとしても、彼は十分に強いから。


「きみの負けだ、道化師」

 傷ついたトマスを見下ろすユイト。


 特に手加減はしていない。

 殺すつもりの攻撃でもなかったが、トマスは結構ひどい傷を負っている。ほっとけば、おそらく死んでしまうくらい。


「どうしたの?」

 痛々しそうな体で、しかしその顔は笑っている。

「きみは勝者だというのに。なぜだか、そのきみは恐怖を感じてるようだ」


 トマスが指摘した通りだった。

 確かに、明らかに勝った。

 しかしユイトの中には、目の前で死にそうな少年への恐れがあった。


「きみは、本体なのか?」

 確信があったわけじゃない。ただ自然と、そう聞いていたユイト。

「その質問には、はい、と言っておくよ」

「なぜ今、おれを呼んだ?」

「今のぼくでも勝てるかもしれない、と考えていたのは事実だよ。実際、きみはまだ一つ勘違いしてるしね」

「一つ?」

「ぼくは、外から来たものに一切干渉出来ないわけではないよ。ぼくが連れてきたものに限ってはね。確かに操ることはできないけど、送り返すことはできるんだ」

 そこまで、トマスが言ったところで、何か、周辺が歪んでいるような感覚に襲われるユイト。


「また会おう、ユイト」

 そう言われた気がしたが、本当に言われたかどうか、はっきりしない。

 ただ次の瞬間には、偽のパーティー会場に戻っていたユイト。


ーー


「痛い。あいつ、意外と容赦ないな」

 まだ傷を負ってはいるが、血を流しながら、しかし平気な顔で立ち上がるトマス。

 それから、全体の一部とはいえ、短時間でボロボロにされてしまった異世界を見渡し、ついさっきまで戦っていた恐ろしい敵の強さを、あらためて実感する。


「お望み通り、じゃないかな。次は本気で戦ってあげるよ、ユイト」

 他に誰もいない異世界で、響きもしないつぶやき。

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