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科学魔法学園のニセ王子  作者: 猫隼
Ch1・令嬢たちの初恋と黒の陰謀
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1ー4・今日はなぜか、あなたに

 ミューテアは空中世界の都市(国家)の中でも、最も広大なエリアと人口を有している事で有名。そこのどんな建物も、おそらく、ユイトとカナメが暮らしていたアルケリの小さな家よりも大きい。

 しかし、のんびり観光している暇はできなかった。

 ユイトがミューテアに来たのは、もう初登校日の4日前。彼はとにかく、地上世界の小さな島とは相当に異なる、空中世界での暮らしに、少しでも慣れなくてはいけなかった。

 全自動ばかりの家庭用機器。ハイテクな交通システム。ロボットの労働者たち。そこはまさに、ユイトにとって異世界も同然。


 一方で容姿に関しても、ユイトはさらにレイに似せるために、髪の色や量を微調整。言葉使いや立ち振舞いの演技も、可能な限り練習した。


ーー


「もう完璧だな。まさしくぼくがもうひとりいるようだ」

 黒髪のカツラと黒縁の伊達メガネで変装している自分よりも、よっぽど自分らしい容姿のユイトと向き合い、レイはあらためて感心する。


 とりあえずふたりは、あまりややこしくはなりすぎないよう、ユイトという使用人をレイが雇った、という設定にした。

 さらに学園のみならず、もう普段から、基本的にユイトはレイを、レイはユイトを演じる。そして貴族パーティーへの出席など、どうしてもユイトでは難しすぎる時は、互いに本来の(ユイトは結局変装だが)姿に戻る。


「いいですか。何か驚く事があっても、なるべく表には出さないように」

 チェック柄のスカートに、リボンがかわいらしい女子用制服姿のミユが念を押して言う。

「う、ああ」

 うん。と言いそうになるが、ああ、にとっさに切り替える、リボンでなくネクタイに、チェック柄はどこにもない男子用制服のユイト。


 いよいよ彼は、アズエルの初登校日を迎えていた。


「まあわかんない事あっても、とりあえず黙ってればいいから。ミユちゃんに任せてさ」

 偽物レイに比べたらずいぶん簡単に、微妙にしか違わない言葉使いを完璧に演じている偽物ユイト。

「なぜでしょうか、ユイト様、今日はなぜか、あなたに非常にムカつきます」

 もちろんミユも、入れ替わっている間は、レイ専用の素の言葉使いをユイトに、ユイトになってるレイには丁寧な言い回しを使う。


 ユイトの、ミユちゃん、というのは妥協の結果。

 ユイトは文化的に、家族以外かつ年下以外の人を、演技以外で呼び捨てにはどうしてもしたくなかった。

 演技には妥協したが、ユイトでいる時は、ミユには「ちゃん」、レイには「くん」をつけさせてほしいと願い、レイは速攻で許可し。ミユはどうなるかを予期し、非常に不満そうな顔を見せたが、結局反対はしなかった。


「レイくんに」

 そしてミユにとっては、この上なくムカつく笑みを浮かべて、

「ミユちゃん、行ってらっしゃい」

 偽物ユイトはふたりを見送った。


 そして麗寧館を発ってすぐ。

「まったくレイ、あなたって人は」

「いや、お、ぼくなんだけど、ぼくじゃないだろ」

 確かにその通りである。


--

 

 厳重なセキュリティらしい柵に囲まれた、アズエルの校内。

「ねえ、ちょっときみ」

 門を通って、いざそこに入ろうという時、偽物レイを呼び止めた、同じく生徒なのだろう女の子。

 振り返ると同時に、隣から、風芸(ウィンドアート)を使うまでもなく伝わってくる、わかってますね、というミユの視線。


(えっと)

 当然わかっているので、ユイトは手早く1枚のメモをポケットから取り出し、女の子へと差し出した。

 女の子は一瞬呆然としながらも、メモを取ると、それを少しばかり読んでから、嬉しそうにその場を去っていった。


 それはまさしく、レイたちがユイトに授けた秘策だった。

 ミユが懸念していた通りユイトは、少なくとも、レイに自分から近づいてくるような女性に対しスマートに対応する、なんて事まったくできるようなタイプではなかった。

 ミユも、レイの(気持ち悪いのでいつも聞かないようにしているために)口説きのための会話などまったく知らないから、それに関しては、彼女も指示すら出来ない。

 そこでレイがある時、「ぼくなら向こうからくる女の子なんて、紙切れ1枚でだって落とせるぜ」と何気なく言った事を、実現してもらおうという事になったわけである。 


 ちなみに空中世界の文字が地上世界と違っているために、ユイトは、その様々なパターンがあるらしいメモの内容をそもそも読めなかった。しかし1枚だけ読んでみたミユ曰く、知らない方がよいらしい。


「あの反応、今まで何度も見てきました」 

「じゃあ、その、えっと、脈あり、て事? あの女の子、レイくんに」

 思わず素の自分に戻ってしまうユイト。

「おそらくもう頭の中ピンク色ですね、あれは」

 それはもう、実に情けなさそうにため息をつくミユ。


「で、レイ、もうここからは」

 そう切り出され、ハッとする。

「ごめ。ああ。悪い」

「ほんとに気をつけてよ」


 そう、もうふたりは、アズエルの敷地前。ここからはユイトの正体がバレぬように、一切の油断は許されない。


ーー


 門をくぐる偽物レイとミユを、アズエルの校舎の屋上から双眼鏡を通して見ていた、柿色の髪に、ボーイッシュな雰囲気の少女。

 隣には、右手のひらに乗せた四角いコンピューター端末を、左手でカチカチといじっていた、全く同じ容姿の少女。


[「で、エミィ、どんな感じ? 例のサギ王子」]

「そうだなあ、なんか思ってたより、おとなしそうな感じ」


 四角端末から発せられた機械音声の問いに答える、それを持ってる方の柿色少女。

 エミィというのは彼女の名前。双眼鏡を持ってる方の彼女も、同じく。

 ふたりは別に双子とか、ユイトたちのようにそっくりさんというわけではない。正真正銘、同一人物。


 彼女ら、実際には彼女、やはりコード能力者であるエミィの特殊技能は"分身(ドッペルゲンガー)"。まさに名称通り、完璧な自分の分身をひとり生成する能力。


[「それは期待外れかもって事?」]

「いやいや、とんでもないよ」

 今度は双眼鏡を持っていた方のエミィが答える。

「なんか凄いよ。どうなってるのか、なんか紙切れ1枚で、先輩女子を上機嫌にさせちゃったみたい」

[「紙切れ? データにはない口説き方ね」]

 そこが妙に引っ掛かったらしい、端末の向こう側の人物。

「口を使うまでもないとか、じゃない?」

 とりあえず、別に必要もないので、分身側であった双眼鏡を持ってた方を消すエミィ。


 双眼鏡も、着ていた服も、何も残らずにそれは消え去る。


 エミィは別に潜入してるとかでなく、れっきとしたアズエル学園の学生。しかし実は、とある組織に所属するエージェントという、裏の顔を持っている。そして端末先にいた相手は直属の上司。


「何か気になるの?」

 そうなのかなと思うエミィ。

[「今はまだ、何とも言えないわ」]

「ふうん」

[「まっ、とにかく学園でまで悪いけど、任務お願いね」]

「うん、オッケー」


 そう、エミィは、立場を利用してのある任務を与えられていた。サギ王子こと、レイ・ツキシロに関する、ある任務。



──


"分身(ドッペルゲンガー)"(コード能力事典・特殊技能31)

 

 分身を生成する特殊技能。


 正確には、自分のコアと意識的に接続した(コア自体を除く)全てを、そのまま生成する。つまり身体だけでなく、服はもちろん、身につけた道具なども一緒に再現可能。

 分身は、本体が意識的に消さなくても、意識を失うと消える。

 分身と本体は、コア以外は同じ存在と言えるが、記憶などは共有しない。しかし分身が消えた時に、分身の記憶情報は全て本体のものとなる。

 分身は、分身の方の意思では消えられないので、本体と離れて行動する場合は、睡眠薬など、自らの意識を奪う道具を持ち歩くのが便利とされる。

 また、3人以上に分身出来ないとよく誤解されるが、非常に難しいとされるだけで、可能だと確認されている。

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