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科学魔法学園のニセ王子  作者: 猫隼
Ch2・幻影都市の道化師
37/62

2ー3・恋愛と友情と

 パーティー会場に向かう車に、一緒に乗っていたフィオナとリリエッタ。


「それ、占い?」

 フィオナがキューブ型コンピューターの即席モニターに映し出していた、怪しげな恋占いのページに気づいたリリエッタ。

「ええ、でもやっぱりあんまり信頼できるものじゃないかも」

 ページには入力されたフィオナの名前とユイトの名前。相性は最高だというふうに書かれてる。

「なんで? いい結果じゃない?」

 何せ相性最高である。

「他にもいろいろ試してるけど、全然結果一致しないのよ」

「そ、そっか」

 いくつくらい試してるのか聞くのは、なんとなく恐ろしいのでやめておいたリリエッタ。

「ああ、でも、なんかニヤけちゃうよ」

 本当に、相性や、脈ありかどうかの診断などで、よい結果が出るたびに繰り返し笑うフィオナ。

 リリエッタは少し前、隣で楽しそうな親友が、まだユイトがレイを演じてる事を知らなかった頃の事をちょっと思い出す。

(「あいつ、遊び人だし」

「リリエッタ。どうしよう。わたしは、きっと、あの人に牽かれてるんだ。でもこわいよ、傷つくのがこわい」)


「よかったね、フィオナ」

 本当によかった。

 彼女が本気で恋をしたのが彼で。

「うん」

 リリエッタを気持ちを知ってか知らずか、照れた顔で頷くフィオナ。


ーー


「レ、イ?」

 会場について、スキップでもしそうなくらいにご機嫌な調子で、もうパーティーの開幕していた会場に入ってきて、彼の所に来たフィオナ。

「レイ、いや、別におかしくはないんですけど。うん、こういう事もありますよね」

「ああ、いや、えっとだな。なんか悪い」

 相当抑えてはくれてるのだろうが、失望を全然隠せてない彼女に、さすがにかなり申し訳なさそうなレイ。

 そう、本物のレイ・ツキシロ。

「わりと、すみません」

 ミユもかなり、ばつが悪そうだった。

「いえ、本来呼ばれているのはあなたなんですし。あっ、わたしちょっと、食堂のお手伝いに行ってきます」

 そこまでぼそぼそと言いきり、その場を離れたフィオナ。


「ちょっと、あんた空気読みなさいよ、ほんと。あの子がどんだけ今日を楽しみにしてたか知ってるの?」

 ゆっくり去るフィオナには聞こえないような小さな声で、リリエッタはレイを責める。

「そうよレイ。あなたとわかった瞬間のフィオナ様の顔見た? あんなに絶望させて、ひどすぎるって」

「いや待て、ミユ、おまえは事情知ってるだろ。どう考えてもぼくの責任じゃないだろ」


 そう、確かにレイの責任ではない。

 急にエミィを通して、ガーディから緊急の用事とユイトが呼ばれてしまうまで、レイだってこの場に来るつもりなんてなかったのだから。


「ユイトは、何か緊急?」

 ため息をつき、問うリリエッタ。

「さあ、ガーディは緊急の用事だと」

「まあ、緊急ならしょうがないわよね」

「おい、ぼくとの扱いの違い」

 そこでふたりのやりとりに思わずミユは笑う。

「いや、レイ、しょうがないって」

「わりと納得いかない」とレイ。

 緊急、とは言っても、あまり心配するものでもないと認識していた3人。

 本来優秀なエージェントであるガーディやエミィに加え、ユイトの強さは相当である。

 強力な組織であるレギオンと通じたアイテレーゼは恐ろしい敵と言えたが、その彼女も、今はすっかりユイトたちを相手にするのをやめたようだし、それどころか、ガーディを通して、ユイト個人に対してではあるが、助けになってくれたりもしているようだった。

 もうやばいといえるような危険などないだろう。

 そう思っていた。

 レギオンの正体、道化師の事、まだこの時は知らなかったから。


ーー


 緊急の用事。ということで、ガーディの暮らしている貸家に呼ばれていたユイトとエミィ。

 ふたりが来た時には、ニーシャがすでにいた。


「"幻影都市"の噂、聞いた事あるか?」

 まず3人に聞いたガーディ。

 ユイトはすぐに首を横にふる。

「知ってるわよ」とそれだけ言うニーシャ。

「なんか、22番目の都市とか言われてるやつ?」

 エミィも、そういうようなものがあるという噂を聞いた事はあった。

「ああ、その話だ」

 そして、それを知らないユイトのために、ガーディは説明した。


 21の都市で構成される空中世界で、いつからか流れ始めた噂。

それは、実はこの空中世界が作られた頃から、どこかへと隠された、22番目の、幻影の都市が存在しているというもの。

 そしてその秘密の出入り口は、最も古い都市と言われる"サフラル"のどこかにあるのだという話。


「バカバカしい話だが、アイテレーゼが言うには、この幻影都市は実在している可能性があって、しかもアーク・ヴィルゲズが通じてるかもしれないんだと」

 アイテレーゼ自身が、普通なら考えられないような可能性だとは言っていた。しかし消去法で、他には考えられないのだと。

「幻影都市があるとしてさ、そこに通じてるって言っても、それが何かまずいの?」

「武器でしょう。おそらく」

 エミィの問いに答えたのはニーシャ。

「ああ、アイテレーゼもそう言ってた。まだはっきりしないが、それがどういう物にせよ、強力な武器だと思うって」

 ニーシャの反応に、ガーディもかなり驚かされたようだった。

「幻影都市はね、SIA(シア)でも今まで何度か調べてるの。単なる噂にしては、古くからの記録の辻褄もかなりあってるし、何かあるんじゃないかってね」


 だがSIA(シア)も結局、幻影都市を発見できているわけではない。

 さすがにあまりにも荒唐無稽な案件でもあるので、あまり本格的な調査自体、そもそも実行された事はない。それでも、これまでいくつか、世間ではあまり知られてない情報をSIA(シア)は掴んではいた。

 例えば、幻影都市はどうやら、かつて非常に恐れられた存在の名称であった事。ただそれが、迷信の類いか、実在した何かだったかはわからない。


「アイテレーゼは、仮に幻影都市が強力な武器になりうる何かだとして、それがアーク・ヴィルゲズに渡るのは非常にまずいだろうって」

 何より恐ろしいのは、幻影都市が何か恐ろしいものなのだとして、何がどう恐ろしいのか、アイテレーゼにもわかりようもない事。

「でも自分が今動くのは、察知され、危険を招く可能性があるから、おれに調査を。信頼できる仲間にも手伝ってもらえとさ」

 はっきり、ユイトたちとは言わなかったのはアイテレーゼらしかった。

「でもルルシアの諜報力を考えた場合。あなたたちは学校を休むのはまずいかもね。そこは大丈夫そう?」

「ちょうど今日から4日休みだし。それは大丈夫だよ」

 ニーシャの問いに、すぐ返すエミィ。

「ああ、おれの方の仲間も、協力してくれると言ってくれてるし。4日もあれば、何かあるなら何かわかるだろ」

 もうすでにフェイリスの仲間には、今回の件を伝えていたガーディ。

「4日か。おれ、ちょっとレイくんに伝えてくるよ」

 ユイトはそうして、その場を後にする。


ーー


 麗寧館に戻り、通信室から、レイの持っている携帯パソコンへと通信を送ったユイト。


[「ユイト、どうした?」]

「レイくん、あの」

 とりあえずは、おそらくはサフラルという都市で、調査があるから、休み中の4日間は、帰らないだろう事を伝える。


[「わかった。あっ、待て」]

 通信を終えようとするユイトを止めるレイ。

[「ちょっと待てよ」]

 そして急ぎ足の足音の後、パソコンを渡された少女の名前が通信機に表示された。


「フィオナちゃん?」

[「あ、ユ、ユイトくん」]

「パーティーに?」

[「うん」]

 互いに予想外の繋がりだった。

[「あの、レイたちから聞きました。何か、任務があるんですよね?」]

「うん。まあ任務というか、いつもちょっとしたお手伝いみたいな感じだけどね」

[「あの、気をつけてくださいね」]

「うん」

 そして、また終わろうとした通信は、またもや継続された。


ーー


「あっ、ちょっと待ってくださいね」

 レイは本当にお節介だとフィオナは思う。


 ほんとに、バカにしないでほしい。

 それは、確かにユイトの事は大好きだけど、ライバルなだけじゃなくてミユは友達なのだ。

 そして予想通り、レイに何も聞かされていないミユに、フィオナはその通信が繋がったままのパソコンを手渡す。

「これ」とそれだけ言う。


「ユイト」

 モニターに映っていた彼の名前。

[「あ、ミユちゃん」]

 それから少し彼女とも話をして、今度こそユイトの通信は終わった。


「フィオナ様」

「わたしはその、後からだったけど、さ、譲ったりはしないからね」

「ええ、望むとこです」

 同じ人に恋するふたりは、そうして笑いあった。


「ほんとお人好しすぎだ。ミユの奴なんて同じ屋根の下で暮らしてるのに」

 笑いあうフィオナとミユを遠巻きに見ながら、レイは心底から呆れ気味に呟いた。

 そしてふと、ふたりのどちらでもない少女との、いつかのやりとりを思い浮かべるレイ。

 今、ユイトと一緒にいるだろう、ある意味彼と一番お似合いな元気少女。


(「やっぱり少し」

「羨ましいのか?」

「サギ王子はほんと、女の子の気持ちを見抜くのだけは上手いね」)


「まっ、一番不憫なのはあいつか」

 レイはそう思った。

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