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科学魔法学園のニセ王子  作者: 猫隼
Ch1・令嬢たちの初恋と黒の陰謀
33/62

1ー33・彼女が恋した人

 コンビによる模擬戦も終えた放課後。もうほとんどの生徒が帰宅した時間。

「レイ?」

「フィオナ?」

 屋上で会ったふたり。

「ミユは?」

「リリエッタは?」

 まったく同時に、それぞれ自分を呼び出した相手の名を告げる。

「これは、図られたわね」

 親友のしてやったり、というような笑顔を思い浮かべ、呆れたような様子のフィオナ。

「あのさ」

 ユイトの方も、ミユが気を利かせてくれたのだと気づく。

 言うと決めた事。

(言わないと、謝らないと)


「話があるんだ」

 フィオナにとっては、かなり意外な言葉だった。 

「うん」

 頷き、彼の顔を見る。やっぱり昔とは違うような気がした。


 そういえばリリエッタは妙な事を言ってた。

(「今度、聞いてあげな。あなたは誰? てさ」)

 本当におかしな事だ。

 レイはレイだ。そんなの当たり前の事。

 それは、確かに最近の彼は、以前と別人のような感じはする。けれどそれは本当は、多分フィオナの方の見方が変わったからだろう。きっと、彼を本気で好きになってしまったからだろう。

 バカバカしい。

 あなたは、誰かなんて。

「あなた」

 そうだ、違ってる。

「フィオナ、ちゃん?」

 どうしてか目に涙を滲ませていた彼女の名をユイトは呼んだ。

「あなたは」

「あの」

「ユイト、さん?」


ーー


 屋上のふたりが、ふたりだけで会うように仕組んだ少女たちは、学園の門前にいた。


「ごめんね、ミユ」

 ユイトとフィオナをふたりだけにするのに、協力してもらった相手に、リリエッタはまず謝る。

「わたしに、謝る必要なんてないですよ」

 しかし、不安そうな表情を隠しきれていなかったミユ。


「おまえら」

 そこに現れたガーディ。

「フィオナは?」

 ただならぬ彼の様子に、ミユもリリエッタも、ユイトらがいるであろう屋上を見る。

「ぐっ」

 次にガーディが何か言う前に、彼の背後に現れ、肘鉄を食らわそうとしてきたリンリー。

 とっさに気づき、振り向き様に防御したのはよいが、彼女のあまりの力強さに、ガーディは数メートル吹きとばされる。

「ガーディ」

 叫ぶリリエッタに、続いて攻撃しようとしてきたリンリー。

 しかし全身の熱を即座に高めたリリエッタへの攻撃は断念し、リンリーは次には、ミユに標的を定める。

 だが彼女にも攻撃は届かない。

 おそらく特殊技能の身体強化(チャージ)で高めているのだろう、凄まじい力でミユに殴りかかろうとするも、彼女の発生させた風圧により、それは止められる。


「ちっ」

 一旦三人の標的から距離をとるリンリー。

「ミユ、フィオナのとこへ。こいつはただの時間稼ぎだ」

 叫びながら、エレメントガンを構えるガーディ。

 しかし適当な素早い動きで、リンリーは彼に狙いを定めさせない。

「くっ」

 唐突に間近に来て放たれた蹴りを、エレメントガンを盾にして防御する。

「つっ」

 いつかのユイトのように、痛みで大声を上げたりはしなかったが、しかしまた一旦距離をとって、足を素早くさするリンリー。


 一方でガーディに言われた通り、風に乗って、ユイトたちのいる屋上に行こうとするが、自分を狙う何かに気づくミユ。

放射光(レーザー)?」

 その特殊技能で、ゲオルグの手から放たれた光線。

 ミユはなんとか、ゲオルグの手の向きから、その経路を推測して避ける。


「行かせはしない」

 そう言って、連続して光線を放ってくるゲオルグ。

 ミユはかわすが、かわすだけでやっとでもあった。


ーー


「ユイトさんね。そう、なんでしょう?」

「あ、えっと、うん。そうなんだ」

 どうせ言うつもりだったのに、よりによって寸前でバレてしまった。

「ルッカの、アルケリ島?」 

「う、うん」

 どういうわけだか、そこまでバレたらしい。

「おれの故郷なんだ」


 涙を止めてくれない。

 正直に何もかも言ってももう遅すぎるのだろうか。やっぱり彼女を傷つけてしまったのだろうか。

「演劇」

 ぼそりと呟いたフィオナに、ズキリと胸が傷んだユイト。

「演劇も、あなたがやってた?」

「う、うん」

 しかし、続けて謝る事は出来なかった。

 また、それどころでない事態となったから。


(何だ? どこから?)

 どこからか現れ、ふたりを囲んだ、いつかのビルにもいたようなマシンの大群。

「フィオナちゃん」

 とっさに彼女を抱きしめ、周囲に基本技能で発生させられるだけの風を起こしながら、転移具を生成。

 普通、そんな事できない。できなかったはず。

 自分がここに来て、以前よりさらに強くなっている事を彼は感じる。

(ほんと、レイくんたちに感謝だな)

 別に根拠はないけど、そんなふうに彼は思う。

 それから、風でマシンのひとつを引き寄せて、その素材である鉄を取り込み、その後、鉄製部品全てをバラけさせ、ぶつけあわせ、マシン全てを破壊する。


「大丈夫?」

「は、はい」

 抱きしめられていた事もあるのか、恥ずかしげな様子のフィオナに、ユイトも照れる。

「うっ」

「やっぱり慣れてないじゃない」


 あまりにも不覚。

 照れて、手の握りを弱めてしまった隙をつかれ、また重力操作(グラビティ)で、転移具を取られてしまう。

「情けない奴」

 おそらく後ろにいたカーリーの範囲歩(ワイドウォーク)で、その場に来たのだろうアイテレーゼ。

「いつっ」

 アイテレーゼに取られた転移具を消して、新しいのを生成しようとするも、それは出来なかった。

「精霊エネルギーよ」

「そんなの、どこから?」

「この学園のセキュリティは確かに強固よ。だから破るのは諦めて、いっそ利用しようと考えたの」


 学園の不法侵入者に対するセキュリティは、対コード能力者用の精霊エネルギー発生と、物理的なセキュリティマシンによるものがある。

 かなり時間はかかったが、アイテレーゼはなんとか、それらの起動タイミングをずらす事は成功した。

 そこで、ユイトが経歴を偽装している事を利用し、セキュリティを、先に物理マシンの方だけ起動させ、彼にそれを破壊させた。そして次に精霊エネルギーの方のセキュリティを発動したのである。


「けど、能力を使えないのはそっちも同じはずだ」

 ユイトは普通に肉弾戦にも自信がある。

「だからこれを取ったのよ」

「ううっ」

「接続は精霊に阻まれてるから、離れた転移具を消す事も出来ない。そして、これを実体化させてる限り、あなたのコアは外部にむき出しでもある。精霊に対してね」

「勝ったつもり?」

 確かに、転移具を消せもしないでいるからだろう。

 非常に体がダルい。しかしユイトは笑う。


「フィオナちゃん」

 彼女の方は見ないで、その腰のオルゴールに手を伸ばす。

「ごめん」

 そして、強引に留め具をちぎり、そのオリハルコン製のオルゴールを地に当てる。フィオナがよく使う時のように、バネではないが、それでもユイト自身の脚力と合わせ、かなり素早くアイテレーゼのとこまで跳び、取られた転移具を強引に取り返したユイト。

「ああっ」

 痛みをこらえ、強引に発生させた風をアイテレーゼとカーリーに、わずかだけ浴びせる。

「このくらいなら、きみたちを倒すくらいなら、できる」

 そう、前にガーディに浴びせられた、エレメントガンのそれほどではない。

「おれなら、できる」

 強靭な精神力を持って、ユイトは告げた。


「本当に強くて」

 またため息をつくアイテレーゼ。

「強くもなったわ」


ーー


「終わりね」

「終わりだな」

 急に戦いをやめたリンリーとゲオルグ。

 しかしふたりは、おとなしく捕まったりはせず、その場から逃げ去り、ガーディたちも深追いはしなかった。


ーー


 一方で、屋上の上空に現れた、アイテレーゼが呼んだのだろう小型の飛行船。


「いいわ、ユイト。またわたしの負けよ」 

「アイちゃん」

「レイ・ツキシロとフィオナ・アルデラントは、あなたが守ってあげればいい。確かに、あなたならそれができるわ」

 そして飛行船の出入り口に足をかけたアイテレーゼ。

「またね」とそれだけ言い残して、彼女は去った。


「ユイトさん」

「ごめん、フィオナちゃん」

 あらためて、フィオナに謝ったユイト。

「騙してて、あの、ほんとに、謝ってすむとは、思わない、けど」

 また泣きそうな彼女に、言葉をなくしてく。

「あの、ごめん、ほんとに」

「ちがっ」

 やっぱり泣きそうな顔で、だけどフィオナは笑顔を見せた。

「そうじゃなくて、そうじゃないんです」

 そしてこらえきれないで、また涙を見せて、彼女は言った。

「これは、違うんですよ。バカ」


 恥ずかしいのに、涙も、喜びも、それに彼を大好きな気持ちも、彼女は止められなかった。

 レイでなく、ユイトだった。

 彼女が恋した人は、彼だった。

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