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科学魔法学園のニセ王子  作者: 猫隼
Ch1・令嬢たちの初恋と黒の陰謀
32/62

1ー32・それは魔法の問いかけ

 偽物エマを返り討ちにした翌日の昼休憩。

 ガーディは、屋上にいたユイトらとエミィに気まずそうに謝った。


「悪かったな」

 結果的に偽者のエマに騙されてしまった事。アイテレーゼのカナメへの知らせが遅れていたら、相当にやばかったろう事に関して、ガーディは非常に気にしていた。

「まぬけな事に騙されちまって」

「いや、彼女に気づけなかったのはわたしたちも同じだよ」とエミィ。

「うん、アイちゃんも言ってたよ。身内でも騙されそうなくらいって」

 ユイトも言う。

「そう言ってくれるのはありがたいが。いや、気にしすぎもよくないな」

 それで、とりあえずは気持ちを切り替えたようであるガーディ。

「はい、結局リンリー様とゲオルグ様の素性は謎のままですし」

「それだよね」

 ミユの言葉に、エミィも改めて気を引き締める。

 そう、結局、経歴偽装している一年生ふたりの正体に関しては謎のまま。


「アイテレーゼは、ふたりの素性を知ってるって言ってたんだよな?」

「うん」

 ガーディの問いに、すぐ頷くユイト。

「それでアーク・ヴィルゲズが雇うような人たちではないって」

「そうか」

 しかし、それで何か考え込むような仕草のガーディ。

「何か気になるの?」

 尋ねるエミィ。

「なんとなくな。何かひっかかる」

 しかしガーディがその答を得る前に、休憩時間は終わった。


 そして特に何事もなく、ガーディも結局何が気になるのかについてもう話しもせず、また数週間ほどが過ぎた。


ーー


「レイ」

「あっ、フィオナ、リリエッタも」

 珍しく登校時に、教室前で会った、今はわりと普通に喋ったりもするフィオナたちふたり。

 最初の頃に比べたら、とんでもない進歩である。

「レイ」

 先に教室に入って行ったフィオナたちを見て、少しうわの空な様子だった偽物レイのユイトに、今度はミユが声をかける。

「ああ、悪い、ちょっとぼんやりしてた」


 あのキスの後。

 ガーディが伝えてきたオリヴィアの件や、アイテレーゼからの通信。偽物エマなど、様々な事があって、それどころでなく、悩んだりする暇もなかった。


(「笑ったりしないでよ、初めてなんだから」

「大事なものなんだからね。とっても大事な瞬間なんだからね」)

 今では、自分の妄想だったのではないか、とさえ思えるほど、現実味のない出来事に思えた。

 しかし、言わなくていいのだろうか。

 あのキスは、自分でなくレイへのものだったのではないだろうか。自分は偽者として謝るべきなのではないだろうか。

 それは彼にはあまりに難題だった。

 でもレイやミユに頼ってはいけない気がした。きっとこれは自分で、本当の自分で向き合うべき問題。

 でもわからないのだ。

 どうしたって、彼女を傷つけないでいられる自信が彼にはなかった。


ーー


「ユイト」

 昼休憩の空き教室。

 ひとりでいたいと伝えたけど、ひとりにはさせてくれなかったミユ。

「ミユちゃん」

「やっぱり、フィオナ様と何かあったんだよね」

「うん」

 ほんとに彼女には敵わない。


「ねえミユちゃん。おれはレイくんじゃない」

「そうね」

「フィオナちゃんに言うよ。おれ、謝らなきゃいけないんだ、きっと、ほんとのおれとして、ユイトとして」

 そう、それしかないとユイトは結論した。

「ユイト」

「ミ」

 また、永遠のような一瞬。

 ただ唇が触れてるだけのキス。

 それでも、大切な瞬間。


「フィオナ様との間に何があったのかは知らないけど」

 きっとほんとは数秒も経たない内に、ほんとに一瞬で顔を離したミユ。

「おまじない。きっと上手くいくように」

「ミユちゃん」

「いいの、何も言わないで。深い意味はないから」

 とてつもなく早口。

「この件に関しても、もう触れないで。それがわたしのためよ。いい」

「う、うん。わかった」

 あまりに強く、言いくるめられる、やはり情けない少年。

「それじゃ、また後で」

 そして、その場を後にしたミユ。


「ちょっと、落ち着かないと」

 とりあえずは、爆発してしまいそうな胸を落ち着けようと、休憩時間の残りは精神統一して過ごすユイトだった。


ーー


 そして午後。

 同性同士のコンビを組んで行う事になった模擬戦。

 組み合わせは、クジでなく自由なので、ガーディに声をかけようとした偽物レイだったが、先に意外な人物から誘いがかかった。

「サギ王子」

 隣の席のネージ。

「おれと組まない?」

「あ、ああ」

 別に断る理由もないし、承諾する。


ーー


「サギ王子じゃないんだよな?」

 模擬戦前の作戦会議で、ふたりだけとなるや、すぐさま核心をついてきたネージ。

「うん、そうだよ」

 事前に、ネージらに疑われたならもう認めていいと、レイたちにも言われているので、あっさり認めるユイト。

「その、言わないでいてくれると」

「ああ、言わない。本物に来てほしくないし」

 予想通りのパターン。

「それより、ごめん。サギ王子だと思ってたとはいえさ、かなり嫌な態度とってたろ」

「いや、別にそれは、しょうがないよ」

再創造(リクリエイション)、て特殊技能なんだろ? ほんとはさ」

「そこまでわかってるの?」

 さすがに驚かされたユイト。

「アルーゼがさ、戦いかたでわかるんだって。結構凄いよな」

「それは凄い」

「前さ」

 少し恥ずかしげに、ネージは続ける。

「チーム戦、面白かったよ。それよりも後、戦った時も。また今度戦ってよ。今度は本気で戦いたい」

「うん」

 嬉しそうにユイトも頷く。


「地上世界の出身なの?」

「アルケリ島てところなんだけど」

「ちょっと興味あるんだ。聞かせてよ」

「うん」

 そうして結局、作戦会議なんてほとんどしないで、ただふたりはいろいろ話し、ただ普通に仲良くなった。


ーー


 フィオナはリリエッタと組んでいた。

 ふたりも、ちゃんと作戦会議なんてしてたのは途中まで。

「何か悩み事?」

 そうだと気づき、問うリリエッタ。

「ちょっと、けど」

 それを言うべきか、フィオナは迷う。


「レイ、あいつ、変わったよね」

 意を決して彼女は言う。

「なんだか、昔と別人みたいに」

 そうじゃないと感じた瞬間もあった。

 前にクロ姫から助けてもらった時に、ユイト、新しい従者である彼を紹介された時。その時は、そんなに昔と違うような気がしなかった。だからなんだかおかしくて笑いもした。

「そうだね。まるで別人みたいにね」

 学園に通う彼が、実はユイトである事をもう知っているリリエッタ。

「ねえ、リリエッタ。ちょっと、聞いてほしい」

 いろいろ、今の気持ちを話すには勇気がいるけど、フィオナにはそれがあった。

「わかった」

 リリエッタも頷く。

「わたしね、やっぱり何にも変わってないよ、成長してない」

 少し体を震わせる。

「バカみたいに、まだ恋に恋してるみたい」

 でもそれがほんとの彼女だった。

 箱入りで、少女向けのフィクションでしか異性を知らなくて。

 いつか自分も、たったひとりの運命の相手を好きになりたいと本気で思っていた。素敵な王子様みたいな相手と恋に落ちたいと願っていた。


「あいつ、悪い奴じゃない、そんなのわかってる。けど、遊び人だし」

 声も震えそうになるけど、必死でそれは抑えた。

「ねえリリエッタ。どうしよう。わたしは、きっと、あの人に牽かれてるんだ。でもこわいよ。傷つくのがこわいの」

「フィオナ」

 いつ以来か、弱音を見せてくれた親友の手に、優しく自分の手を重ねたリリエッタ。

「大丈夫よ。フィオナ」

 そして優しい声で続ける。

「大丈夫なんだよ。あなたはもうなにも知らなかった女の子じゃない。今のあなたの見る目は確かよ」


 いくつか、リリエッタは、自分が見てきたユイトの事を思い出していた。

 少しばかりリリエッタが迫る演技をしただけで、余裕なく取り乱していた彼。フィオナを守るために、化け物じみた強さを見せた彼。

 それにフィオナだけじゃない。

 あのミユも、誰よりサギ王子の身近にいて、もう自分の恋なんて諦めていたような彼女だって、惹かれてしまってるほどに、彼は誠実で、前向きで、優しい。

 

「リリエッタ」

「ねえ、今度、彼と話す時ね。こう聞いてあげな」

 それはきっと、フィオナにとっては素敵な魔法になる問いかけ。

「あなたは誰? てさ」

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