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科学魔法学園のニセ王子  作者: 猫隼
Ch1・令嬢たちの初恋と黒の陰謀
22/62

1ー22・友達

「任せたわよ。後始末は」

 パーティー会場の外に来ていたガーディに、すれ違いざまアイテレーゼは言った。

「ああ」

 頷き、彼は会場へと入っていった。


ーー


「派手にやられたな」

 自ら刺さったフォークやナイフを抜き、血だらけで痛々しいユイトの前に立ったガーディ。

「フィオナちゃんが連れてかれた」

 痛みをこらえユイトは叫ぶ。

「アイ」

 そして問う。

「アイテレーゼ・クレザード・ルルシアは、どこ行った?」


 ガーディは問いには答えず、ただ一粒のカプセルを用意した。

「ユイト、今はおれを信じて、おとなしくしててくれ」

 そしてカプセルを飲み、一瞬苦しそうに顔を歪ませるガーディ。

「かなり、久しぶりなんで、失敗しないように」

 彼は手をユイトに向ける。

「あっ」

 いったいどういう事なのかはわからない。ただ、ガーディの手から放たれた光に当てられたユイトの傷口は、塞がれていった。

 痛みもひいていく。


「おれの特殊技能は、傷を治す、治癒(ヒーリング)

 ユイトの体を完全に治療しきってから、息切れ気味にガーディは言う。

「きみは、無能力者じゃないの?」

「ああ、けど、コアには誰でも、コード能力の性質が刻まれてる。おれたちみたいな無能力者は、自力ではアクセスできない、だけだ」

「さっきのカプセル?」

「直接に神経回路を活性化させて、一時的に、コアとアクセスを強制的にするドーピング剤だ。慣れてないから、こんなふうに余計に疲れるけどな」

 そして大きく息を吐き、その場にへたりこむガーディ。


「ユイト、大丈夫」

 ちょうど意識を取り戻したらしいミユ。

「フィオナは?」とリリエッタ。

「そうだ、ガーディくん、フィオナちゃんはどこに?」

「おれは知らない、けど」

 通信機を出して、起動させるガーディ。

「追ってもらってる」

「誰に?」

 問うユイト。

 答はすぐにわかった。


[「ミユ、ユイト、大丈夫か?」]

「レイくん」

「レイ」

 通信機から聞こえてきた声の主の名を、ユイトとミユは同時に口にする。

[「まったく、よその組織のエージェントからの依頼なんて前代未聞よ」]

「おれの立場上な。おまえたちに頼むしかなかった」

 仏頂面で、通信機の向こうのニーシャに返すガーディ。

[「ユイト、ミユ。フィオナちゃんたちは追ってるから。わたしたちの位置も、ガーディがわかるはずだよ」]

「エミィちゃん」

[「ユイト、感謝は早いからね。それに、友達でしょ、わたしたちも」]

 通信ごしでも、照れくさそうにしてるのが伝わってくるエミィの声。


「それじゃ、おまえたちはこっちへ」

 そしてユイトたちを外に連れていくガーディ。


ーー


 ちょうど外に出てきたところで、上空から現れたのは、黒い飛行船。

「おれの仲間だ。おれとアイテレーゼの関わりのせいで、戦いには手は貸せないけど、エミィたちが追ってるアイテレーゼの所までは連れていってくれるから」

 そこまでガーディが言った所で、着陸した飛行船。


「久しぶり、ガーディ」

 飛行船のドアを開けて、姿を見せた緑色のハンチング帽の少女。

 彼女はまずガーディを見て、そして、彼が連れてきていた他の3人を順に見ていく。

「ツキシロのサギ王子のお付きちゃんに、アルデラントのお嬢様の番犬ちゃん」

 ユイトを見たのは最後。

「そしてあなたがユイトくんね。ガーディのおともだ」

「余計な事は言うな」

 あくまでもクールに、しかし凄まじい早口で、ガーディは少女の事を遮った。

「さあ、おまえたち、さっさと乗れ。フィオナ・アルデラントを助けたいんだろ」

 ガーディの言葉に頷き、リリエッタもミユも飛行船に乗り込む。


「ガーディ、おまえは行かないのか?」

 開いたドアから顔を出してきた、スーツの男。

「ああ、多分行っても役に立てないだろうしな。むしろ感づかれる危険が高くなるだけだ。あの女の勘のよさは異常だから」

 その事をガーディは誰よりよく知っている。

 ただひとつ、彼にもわからなかった。


「ユイト」

 ユイトが飛行船内部に片足を入れた所で、その名を呼ぶガーディ。

「これは口止めされてるから、本人には絶対に言うな」

 そう念を押してから続ける。

「アイテレーゼが頼んできたんだ。どうかおまえを死なせないでくれって。あんなあいつ、おれは初めて見たよ。ほんとに一生のお願いって感じだった」

「アイちゃんが?」

 振り変えるユイト。

「ちょっとわけわかんないだろ。おれもそうだ」

 そう、少なくともガーディには、アイテレーゼの考えはまるで読めなかった。

 どう考えても彼女は、ユイトと敵対する事を本当は望んでいない。それなのになぜ、実際こうして彼と敵対したのか。

 いったい彼女は何をしようとしているのか。


「ガーディくん」

 ユイトはそして、恥ずかしげもなく告げた。

「おれ、きみが友達でよかったよ。アイちゃんの事、教えてくれてありがとう」

 それからドアは閉められ、飛行船は発った。


「友達、か」

 すぐに見えなくなってしまった飛行船が、最後に見えていた方を見ながら、ガーディは呟いた。

「おまえはどうなんだよ、クロ姫」


ーー


 飛行船に乗っていたガーディの仲間は3人だった。当然の事ながら、3人ともガーディが所属する組織フェイリスの構成員。

 緑帽子の少女がエージェントとしてのガーディのサポート係らしいナタリー。

 スーツの男が、ガーディの直属の上司ダリウス。

 それに飛行船のパイロットの男性がスクテロ。


「ガーディの奴、やっぱりさ、学校でもすましてるの?」

 自己紹介をすませるや、すぐに笑顔で問うナタリー。

「まあ、かなり物静かでクールな感じかな」

 ユイトが答える。

「でも、きみらは話とかするんだよな」

 今度はダリウスの問い。

「わりと最低限ですけど」とミユ。

「いや十分、それって、別に避けられたりしてるってわけではないんでしょ? あまり話しかけてこないから話す機会がないってだけで」

「それは、もちろんそうだよ。別に機会がある時は、会話が続かないとかそういう事もないし」

「うんうん」

 ユイトの返しに、かなり満足げなナタリー。


 どうやらガーディと同じくフェイリスで、かつ近しいナタリーたちは、彼の事を家族のように思っている。そしてアイテレーゼに雇われてからは、ほとんど連絡を取ってこない彼をわりと心配していたらしかった。


「ユイトくん、これはわたしたちの口から詳しく言える事ではないが、ひとつだけ」

 ダリウスはひとつだけ、ガーディの事をユイトたちに話した。

「あの子もきみと同じ、地上世界出身なんだ。だからきっと親近感を抱いてもいるはずだ」

 ユイト以上に、ミユとリリエッタの方が、その事実に驚かされた。ユイトとしては、少し戦った時、学園での模擬戦闘や、エミィたちと一緒に戦った時などと比べて、地上での戦いに近い感じを受けていたから、実はそこまで驚きはしなかった。

「お互いに立場もあるだろうが、どうか仲良くしてあげてほしい」

「はい」

 力強くユイトは頷いた。


 そしてそうこう会話している内に、アイテレーゼたちの乗った黒い自動車。

 そのアイテレーゼたちを追っていたレイたちを乗せたSIA(シア)の飛行船に、ユイトたちを乗せた飛行船は、追いついた。

 それはちょうど、アイテレーゼたちの自動車が、彼女らのアジトらしきビルのガレージに入って行ったくらいの時。



──


"治癒(ヒーリング)"(コード能力事典・特殊技能10)


 細胞を復元、修復する事で、傷などを治療する特殊技能。

 最も古くから知られている能力とされる。

 しかし対象に動きがあればあるほど、上手く治癒させるのが難しくなるので、戦闘中などにはほとんど使えない。

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